至るところすっかりクリスマスムードの街中で、

お祭り騒ぎのさなか。


今日の鳶川は人生最良の日と言わんばかりに弾けていた。


無意識に鼻歌まで歌っていた。


昼前にマンション向かいの公園で待ち合わせ、


笑結の姿を見た瞬間、跳び跳ねた。


薄いピンクのセーターにショートパンツ、膝丈のコートにムートンブーツ。

髪は下ろしてニット帽を被っていた。


「先輩!!可愛いです!!めちゃくちゃ可愛いです!!」


「そ、そう…?」


あまりにもストレートに誉められ赤くなる。


本当は一緒に来る葦海に対してのお洒落だったが、


当然、鳶川とのデートに気合いが入っていると思っている葦海はふて腐れる。


「け!!また、めかし込みよって!」


犬たちを置きに一旦帰るにも時間が掛かるし、無駄に疲れるので、

人間用と犬用に食料だけ調達して公園に停めた車で寝た葦海。


バスで学校とは逆方向の市内に近い水族館に向かった。


動物好きな笑結を喜ばせたかった。


保護者同伴とは言ったものの、


いざとなると遠足についてきた父兄の気分だった。鳶川の場合とくに。


鳶川に申し訳ないと思いつつ、

内心は葦海といられることの方が嬉しかった。


こうでもしないとそばにいられない。


明日には会えなくなるかもしれない。そんな不安の方が強かった。

「写メ、撮ってもらえませんか?」

「えっ?ああ、うん」


目が合わないようにちらちらと葦海を見て、

本当は上の空だということに気付きながら、ささやかな抵抗で笑結に話し掛ける鳶川。


図太ければここで葦海にシャッターを押してくれと言うところだろうが、


そんな考えもない鳶川は自撮りのやり方で2人並んで水槽の前でポーズをとる。



「はい、没収」


「えっ…」


指紋で汚れが付くようにわざと画面を持ち上げる。


上着のポケットに仕舞った。


「え〜〜っ!返してくださいよ!」


シーッとすると、


「やだ便所。帰るまで預かっとくで。また人の目盗んで使うかも知れへんからな」


「本当にいじめっ子みたい。まるでの○太とジ○イアンね」


くすっと笑う笑結。


「誰がジ○イアンや、こら」


むにっと頬をつまむ。


「ジ○イアンの方って自覚あるんだ」


「どう見たってこの状況やと俺がジ○イアンやろ、なあジ○イ子」

「○ずかちゃんじゃないんですか?」


「ふん、図々しいわ。なんやったらコ○助でもええで」


「ひどーい!」


ぷーっと膨れる。


また一人、仲間外れ状態にされた鳶川が、


「僕だって、負けませんから!」


ショルダーバッグからデジカメを取り出すと、笑結の手を取って葦海から離れる。


「えっ…」


突然のことに笑結も慌て、葦海を見る。


「な…!」


追い掛けようとしたとき、一人の綺麗な女性が背後から腕を絡ませた。


「たっくん、みっけ!」


「……遊月…?何してんねん。こんなことろで」


「た、たっくん…」


思わず立ち止まる笑結。
そういえば、たすく、という名前だった。


葦海と同じくらいの年に見える女性は、緩くカールしたロングの茶髪、


ボディラインを強調した黒い革のライダースジャケットに迷彩柄のタイトスカートだ。


雰囲気は似ているが、李季とは少しタイプが違う、


幼い雰囲気もある彼女は無邪気にはしゃぎ、葦海に絡む。


「たっくんこそ、何してんの?こんなところで会うなんて!運命感じるわ!」


関西訛りでぎゅーっとしがみつく。


「ど、どなた、ですか?ひょっとして…か、彼女、とかですか?」


恐る恐る確かめる笑結。


「ヨメですう」