私を見つけて

年配の看護師さんが入ってきて、お母さんははっと背筋を伸ばす。

どうやらバイタルチェックというものをしているらしい。
私の細くなった腕に、血圧計を巻きながら、看護師さんはお母さんに話しかけた。

「お母さんもたまにはおうちに帰ってゆっくり寝ないといけませんよ」

「ええ」

お母さんは目を伏せてそっとため息をついた。

「わかっているんですけど、うちにいても落ち着かなくて」

「なにかあればすぐご連絡しますから」

しゅ、しゅ、と血圧計に空気を送りながら、看護師さんが言うと、お母さんはそうですね、と小さく答えた。

なにかあれば。
その言葉に含まれた意味を考えたのかもしれない。

「この子がお腹にいるとわかったとき」

目を伏せたまま、お母さんがぽつりと言った。

「私は上の子の世話に必死な時期だったんです。上の子はちょうど自我が芽生えるときだったんですね。毎日本当に大変で。そんなときに出来た子なので、最初は嬉しいというより……」

お母さんは口をつぐむと、顔を上げて私の顔をじっと見つめた。

「私に育てられるのかなぁと思ってしまったんです」

看護師さんは、ええ、とだけ答えた。
こういった話をきっと何度も聞いてきたのかもしれない。
それくらい、冷静でそれでいて愛情のこもった、ええ、だった。

「産んだあとも大変でした。周りの人は上の子がさみしがらないように手をかけてやれ、というし、だけどこの子にも手をかけてやらないといけないしで」

私はお母さんの顔をただじっと見つめていた。
どんな話であろうと、きちんと聞かなければならないと思った。

「余裕なんてものなかった。ちゃんとしなきゃ、ちゃんとしなきゃ、私がちゃんと育てなきゃって、毎日そればかり考えていた気がします。最初に、育てられるのかなぁって思ってしまったことが帳消しになるとでも思ったのかしら。いい母親でいたかった。でも、それはただの自己満足でしかなかったのかもしれないと、今は思います」

血圧をはかり終えた看護師さんが、お母さんの細い背中をそっとさすった。
その背中は震えていた。

「いい母親になんかならなくても良かったのかもしれない。それより、もっとこの子とたくさん話をすれば良かった。世間から見たいい母親じゃなく、この子にとっていい母親になればよかった」

そこまで言うと、お母さんは泣き崩れた。
看護師さんがさするお母さんの背中に、私はそっと手を当てた。
私の手のひらはお母さんを通り抜けてしまったけれど、確かにお母さんの温かさを感じた気がした。