まるで、目が覚めたときのように、ゆっくり目を開けるとそこは病室だった。

夜の病室。
眠り続ける私のほかにはだれもいない。

規則正しくなり続ける機械音。
静寂。

月明かりに私の頬が照らされていた。
あごのあたりがシャープになった私。

このまま、目を覚まさないとしたら。

私は一体どうなるのだろう。

翌日の昼過ぎ、また真央と優花と葵ちゃんがお見舞いに来てくれた。
三人は、その日学校であったことをたくさん聞かせてくれた。

もうすぐバレンタインだから、男子たちがなんだかそわそわしていること。
数Ⅱの田之倉先生が出張で自習になったこと。
たまに教頭がのぞきに来たこと。
日替わり定食が回鍋肉だったこと、そしてそれがからかったこと。

話しているうちに、三人の声はどんどん小さくなっていく。
そして、最後にはぐすん、と鼻をすする音がした。

「早く目を覚まして、また一緒に学校行こうよ」

三人の隣に座って話にうなづいて楽しく聞いていた私はとたんに悲しくなってしまう。

私だってできることならそうしたいけれど。

私たちにとって、死というものはとても遠くにあるもののはずだった。
必ず先にあるけど、今は見えないものであるはずだった。
霧の濃い道の先にあるような。
見えそうで見えない。
行けそうで行けないもの。
それが、今はすぐ目の前にある。

もし。
もし私が死んでしまったら。

彼女たちは泣くだろう。
きっと、うんと泣いてくれるだろう。
お葬式には何人くらい来てくれるんだろう。

みんなたくさんたくさん泣いて、悲しんでくれるだろう。

だけど。

みんなは生きている。
これからも生きていく。

日々の暮らしは当たり前に続いていくし、学校の授業も勉強も試験も続いていく。
そして、受験がやってきて、それぞれの道を歩んでいく中で。
私のことを、いつまでも悲しんでいる時間なんてなくて……。

きっと、みんなはいつか忘れていくのだろう。

私のことを。

そんなことを、ぼんやりと考えていた。
悲しいとは思わなかった。
ただ、忘れられるんだろうな、と思った。
当たり前の事実として。