きっと私が嫌だ、とこの婚約を断れば
お父さんはうちのホテルを
諦めることになるんだろう。
お父さんはこのホテルを立ち上げるために
相当苦労した。
苦労して苦労して
やっとホテル業界に進出したんだ。
お父さんが複雑な表情で私を見つめる。
過保護なお父さんだから
きっと本音は婚約なんてさせたくないはず。
それでも私に婚約を頼むってことは
今うちのグループは相当な危機なんだろうな、
とばかな私だってわかる。
「……わかった…」
私は呟いた。
お父さんは、はぁ、っと安堵した様子だった。
お母さんは不安そうに
本当に良いの?と私に聞いた。
「うん、良いの。
…ピアノの練習に戻るね。」
私は逃げるようにリビングを出た。
「……婚約…か…」
全身の力が抜けたように
ピアノの前の椅子に腰掛けた。