不思議な話を集めることになった。
 はづみと話しているときだ。
 奇譚集がほしいといいだした。


 不思議な話、幻想的な話。
 それを「奇譚」というらしい。


「都市伝説の本とか、幻想小説とか、買えばいいだろ?」
「そういうのは、あらかた読んだんだ。なんか……ちがうんだよな。なんかさ」
 はづみはつまらなそうにしていた。
 やがて天啓をえたようだ。
「……そうか。なかったら、作ればいいんだ」
 



 大学をでてから、彼とばかりつるんでいる。
 介護用品の会社で、慣れない営業をして、まいにち疲れていた。
 行きづまっていると、先輩がアドバイスをくれた。
「行きつけのバーでもつくれば? 精神的に弱いやつに、酒はかかせないよ。いや、お前のこと悪く言ってるんじゃなくて。まわりのやつらを見ても、そういう傾向があるんだ。ストレス吐き出せる場所みつけろよ」
 そして店を渡りあるいた。
 いちばん気に入ったバーで、はづみと出会ったのだ。


 彼は同い年だ。デザイン会社に勤めている。
 女性的な顔だちで、繊細そうに眼や口角を動かす。
 おびえているみたいで、だから表情が変わるとき、あやうい感じがする。まぶたがときどきひきつりのように動くと、神経質さがむき出しになる。
 もっと自信ありげにふるまえば、モテそうなのにな。
 それが彼の第一印象だ。
 僕らはすぐに仲良くなった。



 煙草をふかしながら、彼がつぶやいた。
「現実にあるけど、ちょっと幻想的な話。そういうのがいいな」
 灰皿に、長い吸いがらが5、6本。
 芸大出のデザイナーなのに、どうしてこうイラチなんだ。
「怖い話じゃないやつ」
「ホラーじゃないのか。難しいな」
 彼はうなずいた。「何かない?」
「期待してるのに合うかどうかわかんないけど。まぁ、あるよ」
 思いかえすと、まわりには変な人がいたものだ。
 記憶をたどり、不思議な話をほりおこす。
 それがこれから話す話だ。
 全貌を話すまで、はづみは煙草をすっていた。灰皿は何度かとりかえられた。