「長野上官、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
何も変哲もない会話を済ます。長野が捜すのは、信越、ただ一人だけ。
捜していた張本人といえば給湯室でお茶を淹れていた。
その姿に少し見とれてしまった事は本人には秘密にしておく。
「信越!」
「ああ、上官、お茶いりますか?」
信越、信越、そうじゃないんです。僕が言いたいことはそんな事じゃなくて…。
「上官、そんな顔されなくても分かってますよ…。」
急に近づいてきた信越のかお。「そんな顔されたらこっちが困っちゃうじゃないですか…」
「しんえつ…」
何も言わずに信越は僕のことを抱きしめる。その暖かさはまるでユートピア(理想郷)のようで。
「上官、大丈夫です。僕は大丈夫ですから、心配しないで下さい。」
「信越、怪我とかしてませんよね。」
「…はい、大丈夫ですよ、上官、ご心配お掛けして申し訳…」
「駄目です信越!無理しないで!」
僕の瞳からは大粒の雫が溢れ出して…信越のスカイブルーの制服を濡らしていく。
「知ってるんです!青海川で地盤沈下があったんですよね!他にもっ…!」
「上官、本当に大丈夫ですよ、僕の被害はこれでも少なかったんですから。」
そっと僕をはなすと信越は僕にハンカチを渡し、さっき淹れたお茶を持つと給湯室を後にした。
「じゃあ上官、淹れたお茶、上官の机に置いておきますね。」そう声が聞こえて、そして、パタン、とやけに印象的な音がして僕一人を残した給湯室の扉は閉まった。