下足箱を移動して近くによると、声が聞こえてきた。

「あいかわらず、帰りが遅いんだから……。私をパシリにするつもり?」

「そんなことねーよ。ゴメンってば。今日はちょっと朝事故ってさ……」

「しょうがないわね。まあそんなところがかわいいんだけど」

 なにこのカレカノみたいな会話。

 女の人はどんな顔かなー。声は可愛かった。でもしゃべりはおちついてて、大人だなって感じがした。

 先生の恋人かもしれない。

 胸が痛んだ。

 女の人が振り向いた。

 バッチリ目が合った。

「!」

 綺麗な人だった。大きなアーモンドアイで色白で、綺麗な桜色の唇をしていた。

 にやりと笑った。

「じゃあね、た・く・や」

 そう言って去った。

 見せ付けてくれるねー。誉田先生は、私に気づかなかったみたい。

 彼女……いたんだ。

 だんだん、胸が痛くなった。締め付けられるように、ギュッと。

 息苦しくなって、もうここにこれ以上いられない。

 私は踵を返して裏玄関から帰った。

 二人に、このことを話そうか。

 いや、内緒にしとくべきだろう。

 福○雅治が結婚したときと同じように、誉田先生に彼女がいることを知ったらファンの生徒
の体調が悪くなるかもしれない。