命の軌跡

 この視線が私には辛い。

 知らない人にジロジロと見られるのは、私は好きではないのだ。

 それに、こんなに膨らんだお腹を見られるのは少し恥ずかしい。

 私はそのストレスからか、無性に苛々してタバコを吸いたくなった。

 吸いたいと言わんばかりに、右手が小刻みに震える。

 私は無意識のうちに、右ポケットに手を突っ込んでいた。

「……ん?」

 思わず変な声を漏らしてしまった。

 いつもあるはずのタバコが、右ポケットには入っていなかったのだ。

 私は正直、苛々は止まなかったが、タバコが入っていなくてホッとした。

 恭平が私を心配して、タバコを抜いてくれたのかな?

 そんなことよりも、タバコに普通に手を付けようとしていた自分に恐怖を覚えた。

 何よりも、昨日あれだけお医者さんに言われ、あれだけ泣いて、あれだけ恭平とも悲しんだのに――。

 それなのに、私はタバコに手を付けようとしていた。

 私は決意が弱い……。

 もしタバコが入っていたなら、私は吸っていたかも知れない。

 そう考えただけで、背筋が凍るほど自分が怖くなった。

 絶対に吸わないと誓ったのは、他の誰でもなく、私自身なのに――。