命の軌跡

 たった一枚のメモ用紙。

 たった一食のおかゆ。

 他の人から見たら、なんでもないものでも、私はこの二つに励まされた。

 何よりも、恭平の優しさに励まされたの。

 色んな意味で頑張ろうって思えた。

「晩御飯の買い出しのついでに、本屋さんにも寄ろうかな……」

 私は妊娠のことは、ドラマを通してしか知らない。

 陣痛がどういうものかもイマイチ分からない。

 だから、今余裕のあるうちに知っておきたい。

 薄い水色の冷蔵庫をガチャリと開け、足りない材料を確認する。

 玉ねぎと卵は残っているけど、豚のひき肉は冷蔵庫には入っていなかった。

 買い出しに行かなきゃいけないのは、豚のひき肉と、あとはコンソメスープの素。

 コンソメスープの素は、煮込みハンバーグに添える汁物として使うつもり。

 私はそれらを頭に叩き込んで、家を後にした。

 近くのスーパーまでの道のりは、そう遠くはない。

 でも、今の私にはその道のりでさえ苦痛で、時間がかかる。

 一歩一歩、地面を踏み締めながら歩いていく。

 道行く人達は、私のお腹を心配そうに横目で見ている。