藤の紫と初の幸せ


「私幸ちゃんが好きだから、大切だから、だから離れようとしてたのに、どうして幸ちゃんは気付いてたのに私とずっと一緒にいたの……っ」

「だからバカなんだよ、初は」

「うるさい! だって私と幸ちゃんはっ」

「抜け道」


静かに落とされた言葉に、私は意味が分からずにぽかんとした顔で幸ちゃんを見上げた。


ぬけ、みち?


はあ、と盛大な溜め息を吐いた幸ちゃんが掴んでいた片手首を離して私のほっぺをむにーっとつまむ。いひゃい、と声を上げると、幸ちゃんは間抜けな顔をしているであろう私を鼻で笑った。


「抜け道があるの、どうせ初は知らなかったんだろ」

「……それって、どういう」

「例えば、武家の息子とただの町娘が恋をして、結婚しようとしたとする」


唐突に例え話を始めた幸ちゃんを見つめて、私は口を閉じた。それを確認した幸ちゃんがわかってんじゃねーかというように笑って、先を話し続けた。


「普通じゃお武家さんと町人は結婚できねえ。ご法度だ。でも、その町娘をいったん裕福な高利貸しにでもいいから養子にしてもらう。そうすっとただの町娘は町人でも裕福な家の出になる。その娘を今度は多少は零落しててもいいから武家のうちの養子にする。あくまで町人の娘は武家の娘になる。もし相手が本当に身分が高かったらここからまたもう少しいい武家に養子縁組させる。と、この元はただの町娘、どうなると思う?」

「それなりの武家の、娘……」

「そういうこと。それが抜け道」


抜け道、については理解した。でも、それを持ち出した幸ちゃんの本意が分からない。


「俺はあくまで身分は町人だからな。ここまでしなくても一回養子に入るだけで十分だろ」

「……それ、どういう意味?」

「だから初はバカなんだよ」

「さっきからそればっかり!」


ほっぺをつねっていた手は離されていた。でももう片方の手首は拘束されたまま。