雪ちゃんは、テーブルに置いてあった雑誌をペラペラと捲っている。

「あのっ」

「なぁに?」

「あの……」

私がモジモジしていると、雪ちゃんは読んでいた雑誌を閉じ、「好きなだけ居ていいのよ」と言ってくれた。

「え……」

「あら?違った?」

「……いえ…違わないです……」

どうやら、私の心を見透かしている様だった。

「こんな事になって、一人でいるのは不安だものね」

「……はい」

コクン、と頷く。いつ部屋に押し入られてもおかしくない様な状況に、正直、恐怖を覚えた。

あのアパートはオートロックじゃないし、今この状況であの部屋に帰るのはどうしても躊躇(ちゅうちょ)してしまう。

「あ、じゃあ合鍵渡しておくわ。なるべく一緒にいるけど、アタシが残業の時とか不便だものね」

テレビが置いてあるダッシュボードの中から鍵を取り出し、「はい」と私に手渡して来た。

「何かキーホルダーでも付けておいて」

「ありがとうございます……」

私はその鍵をジーっと見つめる。

「どうしたの?」

雪ちゃんが首を傾げている。

「あの」

「ん?」

「お家賃、半分出させて下さい」

私からの提案が思いがけなかったのか、雪ちゃんがキョトンとしている。

「一緒に住まわせて頂く以上、私にもその義務はありますから」

それを聞いて雪ちゃんは、丸く見開いていた目を細め、

「……江奈は良い子ね。でも、本当に良いのよ」

と、笑った。

「それじゃダメですよ」

「本当に良いんだってば」

「でもっ……!」

ただ置いて貰う訳にはどうしても行かない。