だってそんな勝手な言い分、許せる訳ないよ。

「ありがと。美園さんは優しいね」

最初に会った日。あの公園で見た、儚げな笑顔。それと同じ表情を浮かべている。

その理由が、今日分かった気がする。

言葉にするのが難しい感情。怒りの様な、切ない様な、悲しい様な、そんな感情。

「今日は、楽しみましょうね!」

グッと拳を握り、私は叫んだ。せめて今日だけは、雪ちゃんにそんな表情をさせない様に。

「あ、それともう一つ」

「なぁに?」

「その『美園さん』って、止めません?」

「え……」

「私も『雪ちゃん』なんですから、何か違う呼び方にして下さい」

なんだか、「美園さん」と呼ばれると、一線を引かれているようで、嫌だった。

「そうね。じゃあ……『江奈』?」

いきなり呼び捨てにされ、ドキッとする。

「呼び捨ては馴れ馴れしいかしら……」

うーん、と考え込んでしまったので、「それでいいです」と、私は答えた。

「そう?じゃあそうするわ」

一件落着。みたいな感じで、雪ちゃんが鼻歌を歌い始める。

それでいいです、なんて平然と答えたけど、心の中はお祭り騒ぎ位、心臓がドキドキしていた。

(いちいちドキドキするな!)

だってまさか、いきなり名前を呼び捨てにされるとは思っても居なかったから。自分でも、なぜこんな事になるのかよく分からない。

私は早鐘の様に打ち付ける心臓を、ギュッと押さえ付けた。