「……ビックリしたでしょ。この格好で迎えに来て」

一瞬、心を見透かされたと思ってドキッとする。

「え?いえ!そんな事は……」

「休日くらい、本当の自分でいたいのよ」

津田部長の声が、少しだけ悲しみを帯びている。本当は少しビックリしたけど、格好なんて関係ない。

「私ずっと、お姉ちゃんがいたら良いな。って思っていたんです。だから、嬉しいです」

嘘じゃない。本当に思っていた事。

「美園さん……。ありがとう」

津田部長の表情が和らいだ。

「そのワンピース、よく似合ってるわね」

「あ、ありがとうございます」

突然誉められて、ちょっと焦る。でも、嬉しい。

「津田部長も、その服お似合いです」

「あら、ありがと。……って、そう言えば、その呼び方だとマズイわね」

「あ……」

そう言われてみればそうだ。偶然会社の人に聞かれてしまったら、取り返しがつかない事態になる。

「えっ…と……なんて呼べば良いですか?」

「そうね……。『雪ちゃん』でいいわ」

「えっ!?」

「ハナと同じ呼び方だけど、二個も三個も違う呼び方があると頭がこんがらがるし、それで良いわ。ただし、『津田雪哉』でいる時は遠慮して頂戴ね」

「……分かりました」

でも、上司を「ちゃん」付けにして、本当に良いんだろうか……。

そう津田部長に訪ねると、

「そんなの気にしない気にしない。だって今は『海外事業部の津田部長』なんかじゃないしね」

と、あっさりした答えが返って来た。