「そんな時の雪ちゃんじゃない!」

ガタンッ!と、拳を突き上げながら勢いよくハナちゃんが立ち上がった。

「江奈っち!仕事の時以外は雪ちゃんから離れない様にしなさいね!この人こう見えて空手の有段者だから、いざと言う時役に立つわ!」

ビシィッ!と津田部長を指差す。

か、空手の有段者……?

「え、そう、だったんですか?」

「……まあ、都大会で優勝した事はあるわね」

「……………」

初めて聞いた情報に、私は口をポカーンと開け、唖然とする。

都大会優勝って――。

「激強じゃないですか!!」

衝撃の事実に、今度は私が勢いよく立ち上がる。

「そうよ江奈っち!だから、いざと言う時の盾に使うのよ!」

「うん、それは酷い!」

ハナちゃんの言葉に、突っ込みを入れる。

そんなやり取りを見ていた津田部長が、急に声を上げて笑い出した。

「あははははっ!なに、バカみたいな掛け合いしてんのよ。はははっ……!」

私とハナちゃんは顔を見合わす。それを見て、私達もつられて笑った。

「……はぁ。なんだか大笑いしたらお腹空いちゃったわ。ハナ、お店閉めた所悪いけど、何か作ってくれない?」

津田部長が、笑い過ぎて出た涙を拭きながらハナちゃんに尋ねると、ハナちゃんの目が輝く。

「もっちろん!今日のディナーのメニューは『チキンのトマト煮込み』だけど、江奈っちはお好きかしら?」

「はい!大好きです!」

「良かった!じゃ、用意するから待っててね♡あ、ちゃんとデザートもあるわよん♡」

ハナちゃんが、ルンルンとスキップをしながらキッチンへ入って行った。