「そうだったの……」

心地好い音量でjazzが流れている店内には、私達三人だけ。ハナちゃんが「込み入った話になるなら」と、お店を早目に閉めてくれたのだ。

「そりゃ、怖かったでしょうね……」

ハナちゃんが、ポンポンと頭を撫でてくれた。私は小さく頷く。

「津田部長が助けてくれなければ、どうなっていたか……」

テーブルに置いた手をギュッと握る。その手をハナちゃんが優しく包み込んでくれた。

「本当、良かったわ」

「ハナちゃん……」

ハナちゃんは、うんうんと頷いている。優しい笑顔に、また涙が流れそうになった。

「まだ安心は出来ないわよ」

私達が涙ぐみながら見つめ合っている横で、津田部長が恐ろしい事を口にする。

「……え?」

「笹木があれで諦めたとは思えないって言ってんのよ」

「そんな……」

私は愕然とする。

……でも言われてみたらその通りかもしれない。津田部長が助けてくれる前から私は笹木を拒み続けている。それが津田部長が現れたからって、簡単に諦めてくれるだろうか。

そう言えば、笹木が会社から出て行く前に「江奈さん、またね」と言っていた気がする。

あの不気味な笑顔を思い出して、私の背筋が凍った。