「津田ぶ……もがっ!」

最後まで言い切らない内に、バッ!と伸びて来たその人の掌で口を塞がれる。

「シッ!大声出さないでよ!」

私の声に、何人かのお客さんが不振な目をこちらに向けていた。私は、コクコクと頷く。

「黙って付いて来て」

その人はそれだけ言って、スタスタとお店を出て行ってしまった。

「あ、ちょっ……」

まだ会計が済んでいなかった私は、慌てて会計を済ませ後を追いかける。

「ま、待って下さい!」

その人は私の声に振り向く様子も無く、近くのひと気の無い公園にそのまま入って行った。

「待って下さい!津田部長!」

もう辺りは暗いし、このままだと見失ってしまいそうで私は声を上げる。すると津田部長らしきその人は、丁度街灯の下辺りで足を止め、勢いよく振り向き叫んだ。

「叫ばないでって言ってるでしょう!?」

静まり返った住宅街に、声が響いた。

街灯の明かりが、スポットライトの様にその人を照す。それは、舞台演劇さながらだった。

「あなただって、叫んでるじゃないですか」

私はゆっくりと近付き、ジッと顔を見つめる。

「……やっぱり」

改めて見ると、疑惑が確信に変わる。

「海外事業部の津田雪哉部長ですよね……?」