笹木が見えなくなると、私の緊張の糸がプツリと切れ、膝からカクッと崩れ落ちた。

「おっ…と、大丈夫?」

寸での所で、津田部長が私をキャッチしてくれる。

「はい。ありがとうございます……」

津田部長の腕を支えに、立ち上がる。若干、足が震えはするが、立てない位ではなかった。

「じゃあ、帰ろうか。君達も、見世物じゃないんだから早く帰りなさい」

ロビーに集まっていた野次馬達にそう言って、私達は会社を後にする。

多分、明日はこの話題で社内は持ちきりだろう。入社以来、こんなに憂鬱になったのは初めてだ。手が滑って社長にお茶をぶちまけた時でさえ、こんなに憂鬱にならなかった。それはそれで駄目な気もするけど……。

津田部長の整った横顔を見ながら、厄介な事に巻き込んでしまった事を、今になって激しく後悔。でも、津田部長が止めに入ってくれなければ、私はあのまま笹木に連れて行かれただろう。

思い出して、ゾッとする。

無意識に、津田部長の服をギュッと握り締めた。

「……ちょっと寄って行かない?」

そう言われて、握り締めた服をパッと離す。津田部長がハナちゃんのお店の方向を指差していた。

「あ、はい……」

私はこのまま一人になりたくなくて、二つ返事で頷く。

「じゃあ、行きましょうか」

「はい」

二人、お昼に通った道をてくてく歩く。

「別に掴んでても良いわよ」

「え?」

「服」

「あ……」

さっきまで掴んでいた服を指差された。

「でも……」

「シワになったらアイロン掛ければ良いんだから」

「……ありがとうございます」

優しく微笑む津田部長に泣きそうになりながら、私は嬉しくて、またギュッと握り締めた。