「……っ!」

突然の笹木の登場に一瞬声が詰まり、私は口をパクパクさせる。

そんな私を見て笹木は、ニャァ……と気味の悪い笑顔を浮かべた。

「……イヤだなぁ、江奈さん。津田部長と間違えるなんて。困った人だ」

口元は笑っているけど、目が全く笑っていない。私はその笑顔に、ゾゾゾッ!と恐怖を感じた。

目線を津田部長へ向ける。しかし津田部長はまだ男子社員と話をしている様だった。

「どこ見てるの?ホラ、一緒に帰ろう。待ってたんだよ?」

恐怖でガタガタと震える私の腕を掴み、強引に引っ張る。

「……あっ……!」

足がすくみ、もつれてちゃんと歩けない。そんな事はお構い無しに、笹木は私の手を引っ張ってグングン歩こうとする。

(どうしよう!誰かっ!)

誰かに助けを求めたいけど、恐怖で声が思う様に出ない。早く!と笹木が強引に私の腕を引き、玄関を出ようとした瞬間、

「おいっ!」

後ろから声がして、笹木がピタッと止まる。

「何処へ行くつもりだ?」

この声は――。

「……津田部長、お疲れ様です。何処へって、俺は江奈さんと一緒に帰るんですよ?」

振り向くと、凄い形相をした津田部長が立っていた。しかし笹木はそんな事では怯まず、さっきと同じ気味の悪い笑顔を浮かべている。

津田部長もそれを見て、「こいつは普通じゃない」と思ったのか、眉間にシワを寄せ、目を細めた。

「生憎だが、私の方が先約なんでね。その手を離してくれないか」

あくまでも冷静に、でも威圧感を相手に与える様な、低い声。それを聞いた笹木が、ハンッと鼻で笑った。