私のその言葉にハッとしたのか、

「あら大変!ごめんなさい!すぐに用意するわね!」

と、オーナーさんがパタパタと慌てて厨房に走って行った。少しして、ジュージューと何かを焼いている音が聞こえ始める。私はホッと胸を撫で下ろし、腰を下ろした。

津田部長がお水を一口飲んで、溜め息を吐く。

「……ごめんなさいね。あの人、あんなんだけどいい人だから」

申し訳なさそうな顔で謝られ、私は首を振った。

「あ、いえ、全然気にしてません!」

悪い人ではない事は分かる。多分、人懐っこいだけなのだろう。

「そう……良かった」

津田部長が、ホッとした表情を見せる。昨日の夜と同じ、少し儚げに。この笑い方、クセなのだろうか。

「……あの。聞いても良いですか?」

「なぁに?」

「あの、オーナーさんって……」

「ハナで良いわよ。本人もそう言っていたし」

「あ、はい…じゃあ、ハナちゃんとは……」

このお店に入った途端、『海外事業部の津田部長』の鎧を脱いだ様に見えた。

実際、口調はオネエ言葉丸出しだし、隠している風でもない。随分と親しい間柄だと言う事は、一目瞭然だった。

「……ハナと出会ったのは5年位前だったかしら。2丁目のゲイバーでね。たまたまその店がアタシ達の行き付けだったの。で、なんとなく顔見知りになって、なんとなく話が合って、なんとなくつるんでるって感じかしら」

津田部長はタバコに火をつけ、物思いに耽る様に煙を吐いた。

「そうなんですか……」

その動作が様になって、見惚れる。