「はぁ……ごめんなさい」

私はひとしきり笑った後、涙を拭き呼吸を整え、オーナーさんの目の前に立ち上がった。

「申し遅れました。(わたくし)、津田部長と同じ会社の秘書課に勤めております、美園江奈と申します」

スッと身体を斜め45度に傾け、お辞儀をする。これは、秘書課お決まりの挨拶のポーズだ。

それを見ていた津田部長が小さく溜め息を吐きながら言った。

「美園さん。こんな人にそんなバカ丁寧に挨拶なんてしなくても良いのよ」

「こんな人って、酷いっ!」

津田部長の言葉に、オーナーさんが瞬時に反応する。

「いえ、挨拶は基本中の基本です。それに、津田部長のご友人とあるならば、尚更です」

津田部長に向き直り、そう告げる。すると、そのやり取りを見ていたオーナーさんが、

「んん~っ♡なんていい子なの!アタシ、礼儀正しい子大好き♡」

と、ガバッ!と私に抱き付いて来た。

「キャッ!」

ちょっと…いや、かなりビックリして、声が出てしまった。

「ちょ、何やってるの!」

突然の行動に津田部長も驚いた様で、焦った様に私とオーナーさんを引き剥がした。

「いいじゃないっ。減るもんじゃないし!ねえ、江奈っち!」

「え、ええ……」

え、江奈っち……?

「そう言う問題じゃないでしょ!会って間もない人にいきなり抱き付くんじゃないわよ!アンタの悪い癖よ!」

抱き付かれた本人よりも、津田部長の方が怒っている。まあ、ビックリはしたけど、私は別に怒っていないけどね。

しかし、このままにしておくとまた言い合いに発展しそうなので、私は二人の間に割って入った。

「あ、あの!私、お腹空きました!」

ここに辿り着いて、もう10分は経過している。短いお昼休み。実際、悠長にお喋りをしている暇は無かった。