あ、気付いた人もいるだろうけど、雪ちゃんは退院以降、女性の格好で出社している。

「もうバレちゃったんだし、本当のアタシはこれだし」

と、吹っ切れた様に言っていた。

私は少し心配したけど、それも杞憂(きゆう)に終わった。最初はみんなやっぱり驚いていたけど、雪ちゃんは気にしなかった。それ以上に、理解してくれる人が沢山いたから。

上司達も雪ちゃんのこれまでの功績を評価してるから、見た目が変わっても何も言わない。ある時、雪ちゃんがボソッと呟いた言葉が、私の耳にいつまでも残ってる。

『ハナの周りの人達も、こんな人ばっかりだったら良かったのにね……』

切ない声で呟く雪ちゃんの気持ちが痛い程分かって、雪ちゃんの代わりに私が泣いた。

そんな私を見て、雪ちゃんは笑っていたけど……。

「……な……えーなっ!」

「わっ……ビックリしたー。何?」

突然大声で呼び止められて、ビクッ!と体を震わす。

「どこまで行くのよ?会社、通り過ぎてるわよ」

雪ちゃんが後ろを指差す。

「え?……あ……」

回想なんかしていたせいで、大分と会社を通り越していた。ただでさえ遅刻ギリギリなのに、何をやっているんだ、私は。

「ごめんごめん!」

私達は急いで引き返す。

「暑さでおかしくなっちゃった?」

雪ちゃんがニヤニヤ笑う。

「違います~」

私はあの事件の時にお世話になった警備員さんに「おはうございます」と挨拶をしながら会社のロビーに入る。