「雪ちゃーん!早くしないと遅刻ーっ!」

私は玄関で靴を履きながらリビングにいる雪ちゃんに声を掛ける。

「ちょっと待って~!この…マスカラが……」

「そんなの良いから早くー!」

あと5分位で出ないと、完璧遅刻だ。

「……出来た!ごめんごめん!」

パタパタと、廊下を走って来る。

「も~!」

「そんな、怒んないでよ~」

雪ちゃんも慌てて靴を履く。

「怒るに決まってるでしょ!大丈夫って言ったのに、最初からやり直しなんかするから時間無くなるんじゃないっ!」

「そうなんだけどー。どうしても気に食わなかったんだもん」

雪ちゃんが、赤く色付いた唇を尖らせる。

「ほら、行くよ!」

そう言って玄関を開けた瞬間、モワッと熱気の塊みたいな風が私達の間を通り抜ける。

「今日も暑いわね~」

雪ちゃんの黒髪ロングストレートヘアーが、その熱気でなびいた。