雪ちゃんが、ガクッ……と膝から崩れ落ち、そのまま床に倒れた。

「だ、誰か救急車!早く!!」

誰かが叫ぶ。

「……ア……ウァ……ヒヒッ……」

言葉にならない声を発しながら、笹木は血の付いた自分の手をガクガクと震わせていた。

警備員達が、笹木を取り押さえる。床に押さえ付けられた笹木は特に暴れもせず、無表情のまま口角だけを上げて笑って何かをブツブツ呟いていた。

「……ゆき…ちゃ、ん……?」

一向に起き上がらない雪ちゃんを、震える手で抱き起こす。

ヌルッ……と、手に何かが付いた。恐る恐る見てみると、私の手はなぜか真っ赤に染まっている。床を見ると、辺りには、どす黒い、血溜まり。

「雪ちゃん……?…ねぇ…雪ちゃん……!」

呼んでも、頬をペチペチと叩いても、反応がない。

「ね…雪ちゃん起きて……雪ちゃん…雪ちゃん。雪ちゃんっ!いや……いやだっ!ねぇ、雪ちゃん!!目、開けてよ!ねぇっ!雪ちゃ……いやだぁぁっ!!」

いくら呼んでも、雪ちゃんは目を開けてくれない。傷口を手で押さえても、白いシャツがどんどん赤く染まって行く。それとは反対に、白く冷たくなって行く雪ちゃんの身体。

お願い……誰か、全部嘘だと言って。最初から嘘だったんだよ、って。笑って、江奈はバカね、って……。

「雪ちゃん!雪ちゃんっ!!」

遠くでサイレンの音が聞こえる。

こんな事なら、駄目でも気持ちを伝えておけば良かった。こんな事なら……。

「ゆ、き…ちゃ……」

急に意識が遠退く。

「美園さん!」

誰かがそう叫んだけど、私はそのまま意識を手放した。