『気持ち悪い……』

誰かが発したこの一言に、ピタッと笹木の動きが止まった。

「……ァァァアアアアァァァッ!死ねよぉぉぉぉぉぉっ!!!」

怒声と共にポケットに手を突っ込んでガバッ!と何かを取り出し、笹木が勢いよくこっちに突進して来る。

太陽に反射してキラッと光ったその手には、果物ナイフの様な物が握られていた。

「キャァァァァァァァッ!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

それを見た野次馬達が、一斉にパニックを起こし、逃げ惑う。

「ちょ、みんな落ち着いて!あっ……江奈っ!」

「雪ちゃん!」

野次馬達に押され、雪ちゃんが離れて行く。笹木は他には目もくれず、一直線に私の方向へと走って来た。

これは、かなりヤバい状況では……?

(足が……!)

逃げなきゃいけないのに、恐怖で足が全く動いてくれない。

「アアアアアアァァァァァッ!!」

目の前まで迫って来た笹木が、叫びながら私にナイフを振りかざす。

「江奈っ!!」

刺される!!!!そう思って目をギュッとつぶった。

「…………………………?」

何も起きない……?辺りも静まり返っている。

私は、何が起きたのか確かめる為に、そぉっと目を開けた。

「ゆ、き、ちゃん……?」

目の前には、雪ちゃんの背中。

え?どう言う事……?

「キャァァァッ!!!」

誰が悲鳴を上げた。

カシャン……と、何かが音を立てて床に落ちる。音の方に目をやると、笹木がさっきまで持っていた、果物ナイフ。その刃には、赤い……血の様な……。