確かに、その役を頼むなら津田部長はうって付けだ。でも、それってなんだか都合よく津田部長を利用している様で、気が進まない。

「津田部長は、良いんですか……?」

「なにが?」

「多分ですけど、笹木どころか会社中に知れ渡っちゃいますよ?迷惑じゃないですか?」

おずおずと尋ねると、津田部長がカラカラと笑い、

「全然構わないわ。気遣い無用よ。あと、アタシが助けてあげたいって思ったんだから、アンタは気にしなくていいの」

と言って、私の背中をバシッと叩いた。

そんなに痛くは無かったけど衝撃で少しよろめく。いや、ちょっと痛かったか……。

「……ほ、本当に良いんですか?」

「良いって言ってるじゃない。それに、アタシに言い寄ってくる女避けにもなるし、アンタに興味も沸いたし。一緒にいてもおかしくない口実が出来たから一石二鳥ね」

若干、津田部長がウキウキしている様にも見える。

私に興味が沸いた、ってセリフがちょっと気にかかるけど、今の私はそんな事を気にしている余裕はない。

(……良いのかな?大丈夫かな?甘えても、良いかな?)

こんな事を頼んだら、津田部長に迷惑がかかる事は明らか。

(だけど、これで笹木が私の事を諦めてくれるなら……)

そう強く願い、少しでも楽になりたい一心で津田部長の申し出を受け入れた。

「じゃあ、あの……よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」

津田部長が手を差し出す。私もそれにならって手を差し出し、握手をした。

格好は女性だけど、手はやっぱり男性の手でゴツゴツしていた。


――そんなこんなで、私と津田部長の、奇妙な関係が始まった。