小夜啼鳥が愛を詠う

ふーん?
光くんの知り合いなんだ。

近づいてって、私もキャプションを見た。

……あれ?
これって、御院さんの宗派と同じじゃない?

「いくつぐらいのひと?」
「んー。9つ上だったから……今、25歳かな。」
「え!若い!」

野木さんがちょっと大きな声を挙げたので、私は慌てて、しーっとゼスチャーした。
でも、本当に若いけど、この人が本山のトップなのかな?

光くんは早速、この人……坂巻孝義さんの書に入札するらしい。

私は、一足先に版画エリアに入った。

版画にもいろいろある。
浮世絵や木版画のイメージが強かったけど、細密なリトグラフやエッチングの美しさは想像以上だ。

キャンパスに油絵の具を重ねた洋画とは対照的な、削ぎ落とす世界観が、私はけっこう好きみたい。

一つ一つをじっくり見て……素敵だな、と思った作品に足を止めた。
白と黒だけなのに、春爛漫の桜。
エッチングの銅版画だ。

素敵……。
私はいつまでも立ち尽くして見とれた。

「なに?さくら女(じょ)、気に入ったのあった?……桜?白黒の桜?暗っ!桜なら、向こうの日本画に綺麗なのあったけど?……たぶん洋画にもあるんじゃない?」

野木さんにそう言われたけど、私は苦笑して主張した。

「んー。これが好きみたい。」
「ふぅん?……あ。洋画コーナー、だいぶ、すいたっぽい。見てくる!野木は小門兄と先に行ってるから、さくら女は気が済むまで眺めてから、どーぞ。」
「ありがと。」

光くんを野木さんに託して、私は白黒の桜を眺めていた。

……版画って、高いかな。
私、これ、欲しいな。
ママを連れてきて、おねだりしても無駄かしら。
パパなら、入札させてくれるかなあ。

真剣に入手の算段をつけようと思案していると、背後から声をかけられた。

「……熱心に見てはるけど、気に入ったん?」
じゃらじゃらした柔らかい京言葉の男のヒトの声。

振り返ると、明るい髪色のすらりと背の高い男性だった。
青い革のジャケットを着て、派手というか、華やかな雰囲気。

かっこいい!

私は心の中で容姿を賛美したけれど、その人は言葉と表情で示した。
「エレミニョンヌ!!……えー、めっちゃかわいい!学生?高校生?」

……えれみ……なに?

よくわからない言葉を交えての賛辞に、私は曖昧に会釈した。

「高校生です。」
それだけ言って、もう一度会釈して、版画に向き直った。

「……ふーん?その版画、そんなにいい?……さっき、お友達が、暗いゆーてたやん。」

しつこく話しかけられて、私はちょっと困った。

……こんなとこ見られたら、また、光くんに怒られちゃうかもしれない。
どうしよう。