小夜啼鳥が愛を詠う

明田先生は不思議なものを見るような目で見て、それから私を不思議そうに見た。

思わず苦笑で返す。

言いたいことは、よくわかります。
身長がほぼ私に並んだとはいえ、小学生男子が高校生の私と光くんを守る……って、言われてもね。

でも、薫くんは小さな時からずっと、背伸びしてくれてたの。
光くんは、薫くんに甘え始めた。
私も……薫くんには不安になることもなく、いつも素の私でいられる。

一番歳下だけど、いつもレンジャーなの。

「……守ってもらってます。」
私は明田先生にそう言って、それから薫くんの腕に手を絡めた。

ずっと、光くんとも薫くんとも、手をつないでいたけれど……腕を組むことはなかった。
薫くんはちっちゃかったし、光くんには恐れ多くて自分から手を出せない。

……いや、そもそも、光くんにも薫くんにも、気がついたら、私のほうから手を出すこと、なくなってたかも。
私、いつの間にか、手を差し出してもらうことが当たり前だったのかも。

そっか。
気持ちのよく見えない光くんも、それでも、毎回わざわざ私に手をさしのべてくれてるんだ。

何となく、心が温かくなった。

心持ち胸を張ってる薫くんが、いつもより頼もしく思えた。



秋。
毎年恒例の、新聞社のチャリティー美術展に行った。
今年は明田先生も出展したと聞き、光くんだけじゃなく、野木さんや私も初日の朝から押しかけた。

人間国宝や、有名人の作品の前の混雑っぷりを避けて、すいてるエリアへ移動する。

なるほど、書や版画エリアには人がいないわ。
でも、書は難しいな。

「僕、あの字、けっこう好きだな。」
光くんが、書のエリアに入るなり、そう言って指差したのは、漢字が4つが3行並んだ書。

善因善果 悪因悪果 自因自果

……因果応報、みたいな意味かな。

「パズルみたい。どういう意味?」
野木さんがまた独特なコメントをした。

「全部自己責任って感じ。潔いよね。字も、なんてゆーか、公明正大。裏表ない人だよ、たぶん。……あ!」

光くんはそんなことを言いながら、気に入ったというその書に近づいて、声を挙げた。

「どうしたの?」
「……好きなはずだ。知ってる人だったよ。京都の空手道場でお世話になったヒト。……へえ。家がお寺とは聞いてたけど……こんなおっきい宗派の本山だったとはね。知らなかったよ。」

光くんはそう言って、感慨深そうに書とキャプションを見比べて眺めた。