小夜啼鳥が愛を詠う

「父もあきらめる気ぃないから、長期戦で情に訴える予定。」
藤巻くんはそう言ってから、マジマジと私を見た。
「てか、桜子さん。なんで着物?」

「あー。……なんでやろ?」

そう振ると、薫くんが胸を張って言った。

「似合うから。めっちゃかわいいやろ?うちの庭でも写真撮ったけど、あの洋館にも合うと思ってん。……でも玲子の邪魔しとーないしなあ。まあ、また来よう。その着物、桜子にやる。」

は?

「やるって……これ、おばあちゃんの着物よ?借りただけよ?」

薫くんは、つないだ私の手をぶんぶん回した。

「そう言わな、着てくれへんやろ?でも、それ、もう、桜子のや。おばあちゃん、他にもいっぱいくれるつもりやから、また着てな。」

……そんな……。
さすがに、ママに怒られちゃうよ。


でも帰り着いた小門家で、おばあちゃんにも同じようなことを言われてしまった。

帰宅してすぐに、ママに報告した。
ママは慌てておばあちゃんに電話して、大切な着物を借りたお礼を言っていた。


薫くんは、パパや成之さんにもメールで私の写真を送信していたらしい。

帰宅したパパは、ママが席を外した隙に小声で言った。
「小門との見合いの時に真澄さんが着てた着物だって?よく似合ってた。小門も感慨深そうだったよ。」

真澄さんは、おばあちゃんのお名前だ。

「うん。薫くんのお気に入りなんだって。」

そう答えたら、パパは首を傾げた。
「光くんじゃなくて?」

「……光くんは、興味ないと思う。」
何の気なしにそう返事してから、自分の言葉に傷ついた。

着物に興味がない、だけじゃないよね。
たぶん、私が何を着てても、特に何も感じないんだろうな。

パパは眉をひそめて、それから私の頭を撫でた。
……励まされたのかしら。
それとも……。



一学期が終わる頃、菊地先輩が光くんを勧誘した。
「なあ。サッカー部、入らん?」

「……今さら?」
光くんは呆れたようだ。

菊地先輩は肩をすくめた。
「三年が引退するんを待っとったんや。やっと俺らの世代になるから。……どうせ、お前、練習さぼるやろ?」

なるほど、光くんの身体能力と頭脳を利用できるなら、多少のことには目をつぶる覚悟らしい。

光くんは、めんどくさそうだったけれど、とりあえず練習試合の見学をすることになったようだ。

「……サッカー……てことは、小門兄のナマ足スケッチし放題……。」
ぐふぐふと、野木さんが変な笑い声をあげてにやけていた。