小夜啼鳥が愛を詠う

そろりと忍び足で、壁づたいに藤巻くんが現れた。

藤巻くんもまた、私に、唇に人差し指をあてがうゼスチャーをして見せた。

……父親の求愛を立ち聞きする思春期の息子って……いいのかしら。

「このままじゃ、ダメですよね。……わかってます。清昇(せいしょう)くんの気持ちを考えると……こんな中途半端な……」
玲子さんの声が詰まる。
「ごめんなさい。私のエゴです。ちゃんとけじめつけなきゃいけないのに……御院さん、居心地よすぎて……。」

「そうじゃない。なんで、いつまでもそんなこと言わはるんですか。私はあなたと生きたいんです。清昇かて同じです。玲子さんが安心して、私らに甘えていてほしいんや。」

藤巻くんが、うんうんと、両手の拳を握ってうなずく。

「私はいいで。こうして曲がりなりにも、玲子さんとの時間をもてるんやから。けど、清昇は……」
「もう。清昇くんを盾に脅さないでってば。ずるい。」
「……どうしたら、その気になってくれはるんやろなあ。」
「だって、……御院さんにふさわしくないもん、私。」
「そんなことない、ゆーてますのに。……なあ。玲子さん。」
「いや。無理。」

……痴話喧嘩だ。

なるほど。
2人はこの攻防戦をずっと繰り返しているのか。
堂々巡りだわ。

御院さんにふさわしくない、と意固地に思いこんでる玲子さん。
成之さんとの年月が鎖になってるわけね。

そのうち、声よりも、たぶんキスしているのだろう湿った音や、あえぎ声らしき音が増えてくる。

どこまでするのー!?
ドキドキしてる私と対照的に、薫くんと藤巻くんは、そーっとそーっと窓を覗こうとしてる。

こらこら!
私は2人の腕を引いて、止めた。


「びっくりしたー!いつからなの?」
山を降りながら、薫くんにそう聞いた。

「いつやっけ?この春ぐらい?最初、鳥の声かと思ったら、玲子がぴよぴよ鳴いてた。」

薫くんが藤巻くんに確認した。

「うん。3月。玲子さんが薫のじいちゃんと別居して、すぐに父がプロポーズしたんやけど、どうしてもOKしてくれんかって。それで父は意地になって千回断られてもあきらめへんって宣言してん。それで、毎日プロポーズし続けて、千日過ぎて、やっと、父のことは好きやけど一緒にはなれんって言われたらしい。」

千日!?

「深草の少将と小野小町みたい。……じゃあ、結婚はしないけど恋人になったの?」

……玲子さん……なんか……愛人体質ってやつ?