小夜啼鳥が愛を詠う

「おばあちゃん、ありがとう!あとで、返す。」

薫くんはおばあちゃんにそう言って、いつもみたいに強引じゃなく、そっと両手を引いて歩いてくれた。

……てか、片手のほうが歩きやすいんだけど。

「やっぱりなー。絶対、似合う思とってん。さすがや。桜子。すごいかわいいわ。」

何度も何度もそう言って、薫くんは玄関先の大きな鏡の前に私を連れて行った。
鏡の中の私は、なるほど、確かにいつもよりかわいく見えた。

「庭で写真撮ろう。」
薫くんは、そのつもりだったらしく、玄関に女性用の白い草履を準備してくれていた。

「汚したくないし、お家でいいよ?」
そう言ったけど、薫くんは日本庭園で撮影したいらしい。

結局、お庭でたっぷり撮影され、さらにあの洋館まで引っ張られてしまった。
もちろん、着物でけものみちを分け入るのは無理だ。

「寺の人が使う道やったら大丈夫!」

いつの間にか、薫くんは、御院さんだけじゃなく、ほとんどの職員さんや守衛さんとも仲良しになったらしい。
今日も守衛さんに断って、お寺の敷地から舗装した道に私を引っ張った。

「玲子、もう帰ったよな。5時過ぎたし。玲子にも見せたかったなぁ。」
薫くんは上機嫌でそう言った。

でも、玲子さんはまだ帰ってなかった。
……私達は、あの洋館の窓越しに、結構とんでもないところを見てしまった。

玲子さんと御院さんの……逢瀬……と言うと、言い過ぎかな?
窓の向こうの2人は、仲よさそうにほほえみ合って会話していた。

「れい、」
声をかけようとした私の口を、薫くんが手でふさいだ。

……薫くん、また身長伸びた?

「しぃーっ。」
声にならない声で、薫くんが私を止めた。

なんで?

でも薫くんは、黙って首を横に振って、口元に人差し指をあてがった。
そして窓にうつらないように壁に張り付いた。

私もすぐ横に並ぶと、館の会話が漏れ聞こえてきた。

「まだ、気持ちの整理はつきませんか?」
柔らかい京言葉まじりの御院さんの声。

玲子さんの返事は聞こえてこなかった。

「……わかってます。すみません。急かさへんと約束したのに……。こうして、そばにいてくれはるだけで、幸せです。それはほんまです。でも、どれだけ、あなたを腕に抱いても、すり抜けてしまわはる……。」
御院さんのため息まじりの声は、妙に色っぽく生々しかった。

玲子さんの息遣いも、やたら艶めかしい。

えーと……「腕に抱いて」って、言った?
じゃあ、やっぱり2人は……そーゆー関係なんだ。

ひや~~~~っ!