小夜啼鳥が愛を詠う

ママもパパも言ってた。
おばあちゃんと成之さんは、今も深く愛し合っていて、水面下で逢瀬を重ねている、と。

35年別居してても、戸籍上は夫婦なのに……隠れて逢う必要ないのに……。

「玲子さんがかわいそう?それとも、玲子さんに対して意地になってはるんかな。」
目の前のおばあちゃんじゃなくて、成之さんに対する疑問だった。

でもおばあちゃんは悲しそうに謝った。
「……ごめんなさいね。さっちゃんにまで心配かけて。」

びっくりした。
もちろん、私にはおばあちゃんを責めるつもりなんかない。
私は慌てて手を振った。

「あの。そんな。おばあちゃん、悪くないのに。……私、みんな好きなんです。おばあちゃんも。成之さんも。……玲子さんも。だから、おばあちゃんと成之さんも、玲子さんも幸せになってほしいんです。」

そう言ったら、おばあちゃんは微笑んだ。

「ありがとう。……さっちゃんは、本当に優しいお嬢さんね。あおいちゃんの言う通り、光くんのお嫁さんになってくれたらうれしいわ。私の娘時代の着物、ぜーんぶあげる。……あら、プレッシャーをかけるつもりはないのよ。さっちゃんが他の誰かを好きになっても、祝福するわよ?」

……プレッシャーは感じなかったけれど、それ以前に、私は固まってしまった。

なんて?
光くんママが、私を光くんのお嫁さんに望んでるの?

そんなの聞いたら……光くん、絶対、その気になると思う。
私の気持ちも、自分の気持ちも、強引にねじ曲げても、大好きなママの望みを叶えるんじゃないかな。

……うわぁ。
どうしよう。

うれしい。
けど、微妙。

うれしい。
でも、私……愛されてるわけじゃない。

……どうしよう。


「桜子ー!まだぁ?」
襖の向こうで、ドタドタと廊下を踏み鳴らす音が近づいてきた。

「いいわよ。薫くん、さっちゃんに鏡を見せたげて。」

おばあちゃんの声に、薫くんは勢いよくふすまを開けた。

薫くんのお顔がパアアァァッと輝いた。
キラキラした瞳で、ほーっと私に見とれる薫くん。
言葉なしでも、誉めてもらってることが伝わってきた。

……わかりにくい光くんとは対照的だわ。

「これ。お茶室のふすまは、立ったまま開けちゃダメって言ってるでしょ。」

おばあちゃんのお小言すら耳に入ってないみたい。

薫くんは私の周りをぐるぐる回って、ニッコリ笑った。
「すっごくかわいい。綺麗やと思ってたけど、予想以上に似合っとー。鏡
、見に行こう。」

そう言って、薫くんは私の両手をとった。