小夜啼鳥が愛を詠う

「すごく綺麗……。」

うっとりそう言ったら、おばあちゃんは頬を染めた。

「道成寺の柄を真似て作ってもらったの。ちょっと派手でしょ。……結局、お見合いの時に一度着ただけになっちゃった。」

お見合い……。
えーと、それって……成之さんと出逢った時に着てたってこと?

「さっちゃん、着てみてくれない?」
そう言って、おばあちゃんは衣紋掛けから着物をそっとはずす。

「え!いいんですか?」

びっくりした。
でも、うれしい!

おばあちゃんは目を細めて、笑顔でうなずいた。
「ええ。私のお着物は、どれもあおいちゃんには淡すぎて合わないのよね。さっちゃんにはよく映えると思う……って、薫くんが主張するの。私も、さっちゃんに着てほしいな、って。」

「……そう言えば、薫くん、着物が好きなんですね。前にも着てって言われたような。……すみません、大切な思い出の着物なのに……。」

おばあちゃんは、本当にうれしそうに私に着付けてくれた。
「帯も、道成寺風なのよ。」

黒地に丸い大きな花刺繍がいくつもちりばめられた帯。
高そう……。
光沢のある黒い帯をキュッキュと言わせながら結んでくださった。

「やっぱり!よく似合うわー。」
おばあちゃんは、キャッキャとはしゃいで手をたたいた。

「帯はだらーんとするんですね。座る時、折れないんですか?」
けっこう重いなと、振り返って見ようとしたけど、見えない。

「……そう言えば、私、帯を踏んで座ってしまったわ。お見合いの時。恥ずかしくて死んでしまいそうだったのに……笑ったり呆れたりせず、なぐさめてくださって……」

「さすが。紳士~。うちのパパなら笑い飛ばして、後々までネタにしそう。」
タブーのはずなのに、私は当たり前のように成之さんを念頭に描いてそう言ってしまった。

おばあちゃんは、ちょっと動揺したっぽいけど、すぐにふーっと息をついた。
「……そうね。さっちゃんは、知ってるものね。……そう言えば、3年前……さっちゃんのお家で、もめたのよね?……驚いたでしょう。ごめんなさいね。」

いやいやいや。
おばあちゃんが謝ることじゃないのに。

私は慌てて首を横に振った。
「成之さん、こちらに帰って来られないんですか?一人暮らし、あまりお身体によくなさそうで心配です。」

ママが心配して、お料理をお裾分けしてるみたいだけど、立場上、会食も多いらしく、毎日というわけにいかないらしい。
たぶんもともと無頓着なのだろう。

「……私の口からは何とも。」

おばあちゃんはそう言って、ため息をついた。