小夜啼鳥が愛を詠う

……よくない。

野木さんも私も、一言も返事できなかった。

光くんだけが顔をしかめて
「避妊と、性病うつされないように、気をつけなよ。」
と、言った。

……光くん……やっぱり……経験してそう……。
いつの間に……。


すぐに椿さんは菊地先輩とつきあい始めた……いや、違うな。
2人はHを楽しむ関係になった。

でも菊地先輩は、かなりマジに椿さんに入れあげてる気がする。
椿さんも毎日ハッピーに見えるんだけど、

「菊地パイセン。思ったより都合いいのよね。造り酒屋の子ぉでリッチだし、意外と役に立つし。……音校行くまでこのまま継続でもいいかも。」
と、クールにうそぶいていた。


光くんは、空手のお稽古の日以外の放課後は毎日、明田先生のアトリエに入り浸っていた。
野木さんに至っては、平日と土日もずーっと。

最初のうちは、私も光くんとアトリエに行き、囲碁や連珠を教わった。
けど、勝てないゲームを続けるほどつまんないことはない。

意欲を失った私は、当然のように遊びにやってくる薫くんや藤巻くんに連れ出されるようになった。

「……結局、こうなるのよね。」
2人に引っ張られて行く先は、山手の小門家、墓地の裏の山、あの洋館、そして玲子さんの職場。

「あら、さっちゃん。いらっしゃい。」
梅雨だけど晴れた放課後、小門家のおばあちゃんが笑顔で迎えてくれた。

「こんにちはー。」

いつも幸せそうなおばあちゃんに、少し胸が痛んだ。
……成之さんとうまくいってるんだろうな、って。

なのに、成之さんはまだ頑なに一人暮らしを続けてる。
歯がゆいわ。

玲子さんも、御院(ごいん)さんとどうなってるんだか。

……まあ、椿さんと菊地先輩みたいに簡単にはいかないよね、うん。


「おばあちゃん。こないだの、あれ。出して。」

薫くんがそう頼むと、おばあちゃんはニコニコとうなずいた。

「そうね。いらっしゃい、さっちゃん。イイモノ、出しといたの。」

いいもの?
お菓子?
お人形か何か?

よくわからないまま、おばあちゃんに手招きされて、お庭に面した小さなお茶室へ入った。
薫くんは、ついてこなかった。

お茶室の真ん中にどーんと置かれた衣紋掛けには、桜色の地に大きめのしだれ桜の柄のお着物。
振袖より少し短いけど、長い袖ですごくかわいい。

「素敵!光くんのママのお着物?」

近づいてよくよく見ると、地紋も刺繍もすごくゴージャス。

「いいえ。私の中振袖よ。」

え!?
……てことは……何十年前の着物なの?

わかんないわ。
新品みたい。