驚きつつも菊地先輩がキャッチする。

「おいおい。これ、あかんやろ。」
と、菊地先輩が苦笑してるのがよくわかった。

「せんぱーい!昼休みに返しにきてなーっ!」
椿さんはそう叫んで、得意の指差しウィンク、からの、投げキッス!

……どひゃーっ。

これには、さすがの菊地先輩もどん引き……すると思ったんだけど……してないな。
むしろ、ツボにはまったらしく、菊地先輩はお腹を抱えてゲラゲラ笑ってた。

……わかんないわ……君らの感覚。


2人は、初対面からウマがあったようだ。
昼休みが始まると、菊地先輩が速攻でやってきた。

「聞いたで。自分、歌劇団、目指しとるんやて?有名人らしいやん。」
生徒手帳の写真のページをわざわざ指し示して、菊地先輩が椿さんに返した。

椿さんは、クールに言ってのけた。
「これからもっと有名になる予定。先輩は?サッカー部って聞いたけど、趣味止まり?プロとか、目指しとるの?」

菊地先輩は、皮肉っぽく笑った。
「そんなレベルちゃうわ。県大会でもベスト8止まりやのに。」

……そうなんだ。

昔、パパの時代も、サッカー部はそんなに強くなかったらしい。
でも、光くんのパパがキャプテンのときには、県大会で優勝して、インターハイに出場したそうだ。
その時の後輩の一人は、プロのサッカー選手で、確か ヨーロッパのクラブチームに移籍したとか何とか聞いた気がする。

……正直、サッカーに興味はないけれど、前に光くんがそのサッカー選手の写真をチャリティー美術展で入札してたことを覚えてる。
佐々木……なんとかって言う選手。


数分後、いつものように光くんがやってきた。
さらに続いて、野木さんも。

2人とも、菊地先輩がいることにも、椿さんと盛り上がってることにも驚いていた。
けれど、事情を察したのか、黙々とお弁当を食べ始めた。

私達がお弁当を食べ終える頃、2人はそれぞれ自分が聞きたい情報交換を過不足なく終えたらしい。

不意に静かになった。

「ぶっ!」
野木さんがむせたわけではなく、口をとがらせて擬音を発した。

「?」
よくわからず野木さんを見つめた。

野木さんは、そろそろと人差し指を突き出した。

指の先をたどると、……うわあぁぁぁぁっ!!!

菊地先輩と椿さんが、キスしてた。

それも、オトナのキス。
唇が触れるだけじゃなく、がっつりむしゃぶり合ってる!

キャーッ!

こんな、昼休みの教室で!