小夜啼鳥が愛を詠う

「……光くん……。」
安心したのか、涙の量がどっと増えた。

「さくら女(じょ)っ!大丈夫!?」
「おい!何をしてる!嫌がってるだろう!」

野木さんと、明田先生の声。

……自由になった私はヘナヘナと、歩道に座り込んでしまった。

「放せやっ!何やねん!お前!」
菊地先輩が光くんの手から逃れようと暴れて……光くんの美貌に気づいたらしい。

「……自分、めっちゃ綺麗やな……。」
急におとなしくなって、至近距離で光くんに見とれちゃった。

こらこら。
……なんか、私の立場ないんですけど。

光くんは、苦笑して、菊地先輩を放した。
そして、私に手をさしのべた。
「さっちゃん。泣かないで。大丈夫だから。」

「……大丈夫じゃない……やだ……私……初めてなのに……」
かすった唇を削ぎ取ってしまいたい。

私はごしごしと、拳で唇と、目尻をこすった。

「大丈夫。野良犬が舐めただけ。気にする必要ないよ。ほら、冷えちゃうよ。」

光くんはそう言って、私の両脇に手を入れて、ひょいと抱き上げて立たせてくれた。

そして、泣いてる私の髪を撫で、頬を撫でて……なんと私の目尻と唇に、そっとキスした!

キスだ!

何で!?

光くんが、私にキスした!?

嘘っ!!

確かに、二度、光くんの唇は、私のお顔に触れた。
ちゃんと、唇にも触れた!

なのに私は夢のようにしか思えなかった。

「消毒。これで、もう、大丈夫。……でしょ?」
光くんはそう言って、天使の微笑みで私の瞳を覗き込んだ。

私は、コクコクッとうなずいた。

けど、頭の中はまだ真っ白。

本当に、キスしたの?
光くんと?

キャーッ!!!

さっきは気持ち悪くて悪寒がしたのに、今度はうれしくて震えてきちゃった。

すると光くんは、私の背後に回って、後ろから腕を回して抱き寄せた。
そして、呆気にとられてる菊地先輩に言った。
「そういうことなので、桜子のことは、諦めてください。」

私は慌てて言った。
「菊地先輩、彼氏がいても奪うヒトだって。」

まるで告げ口だ。

苦笑した菊地先輩に、光くんは微笑んだ。
「奪ったら飽きて、また次に行くんですね。……先輩の恋愛に口出しする気はありませんが、桜子はダメです。うちの大切なお嫁さんですから。あなたなら、遊び相手に不自由ないでしょ?菊地先輩。」

お嫁さん……。

光くん?

……いや、さすがに……嘘も方便だろうけどさ。

お嫁さん……。

にへら~っと、頬がゆるみだした。