小夜啼鳥が愛を詠う

翌週の説明会と制服採寸にも、椿さんは来なかった。
てっきり翌日に迫った音楽学校受験のためだろうと思っていた。

でも、違った……。

椿さんは、この日の朝から突然、40度の高熱を出してしまったらしい。
慌てて病院へ駆け込んだところ、インフルエンザと診断されたそうだ。
一週間の蟄居を命じられ、高校の説明会どころか、心血を注いで準備してきた音楽学校を受験することも禁じられたという。

……同じお教室の中にもインフルエンザに罹患した生徒がいたらしく……一週間後、お稽古場で2人が抱き合って泣きじゃくってるシーンが後日の特集番組で全国に放映された。

椿さんは、音楽学校に入れなかったけれど、絶大な人気と知名度を得た。
……来年また受験することになるのだろうけれど、たぶん強力な後押しになるだろう。

「大丈夫!椿ちゃん、絶対、合格するから!ママが保証する!協力もする!ママ、これでも、付き人も、ファンクラブ代表も経験してるから!椿ちゃんの最初の付き人にはママがなってあげるからね!」
まるでステージママのようなことを、うちのママがテレビにかじりついて泣きながら言っていた。


こうして、本格的に春が来た。


高校の入学式の朝、光くんが迎えに来てくれた。
「おはよう。さっちゃん。学校、行こ。」

朝日を受けてキラキラと輝く光くんは、高校生男子とは思えないほど、今日も美しかった。

「おはよう。光くん。ごめんね。こんな早い時間に。」

私がそう謝ると、光くんがほほ笑んだ。

「謝るのは僕のほうだよ。ごめんね。僕が断ったから、さっちゃんに大役を押し付けちゃったね。」
「……そう言えば、そうね。」

そうなのだ。
高校入試で、光くんは当たり前のように最高得点を納め、新入生代表として挨拶するよう連絡を受けたそうだ。

でも光くんは固辞した。
頑なに拒絶した結果、入試で2番めの成績だった私にお役が回ってきた。

びっくりしたけど……光くんの代役なら、と、引き受けた。

「やー、でもまさか、さっちゃんに迷惑かけちゃうとは思わなかったよ。ほんと、ごめんね。……でもさっちゃん、よく勉強したんだねえ。」

歩きながら、光くんがそう言った。

……私自身も、まさかそこまの高得点を叩き出せるとは思ってなかった。

「たぶん野木さんや椿さんに問題の解説とかしてたのが、結果的に私の勉強になってたんでしょうね。2人に感謝だわ。」
「ふーん?さっちゃん、教えるの、うまいんだね。……薫のカテキョー頼もうかな。」

……いやいやいや。
私より光くんのほうが適任でしょ。

てか、それ以前に、薫くんだって頭いいんだし、必要ないでしょ。