小夜啼鳥が愛を詠う

え!
やだ!
恥ずかしい!

私は慌てて靴に手を伸ばしたけど、光くんのほうが素早かった。

「光くん!いい!自分でやる!」

そう言ったけど、光くんは天使のお顔で言った。

「靴磨きって力がいるから、女の子にさせられないよ。ね?あーちゃん。」

最後の笑顔はママに向けた光くん。

「そうそう。光は力仕事を喜んで引き受けてくれるから、ほーんと助かるわぁ。……あ。さっちゃんのお仕事、残っとーよ。アップルパイ。」

光くんママはそう言って、私の背に軽く手を当てて、お台所へと誘導してくれた。

振り向くと、私の靴を持った光くんが、じっと光くんママを目で追っていた。
……私もあの瞳に映ってるはずなんだけど……全く見てくれてないみたい。

こっそりため息をついた。



その夜は、小門家で夕食をご一緒してから、帰宅した。

愛車を運転しながら、ママが私をほめてくれた。
「さっちゃん、アップルパイの仕上げ、ありがとうね。あんな風に切り目を入れたらかわいくなるのね。どこで覚えたの?」

「……図書館のお料理本で見たの。いつもみたいに細く切ったパイ生地を斜めに並べるより簡単で見映えもするかな、って。」

そう答えると、ママはうなずいて、私の頭を撫でてくれた。
「焼き加減も均一になるし、イイと思う。……さっちゃんは、研究熱心ね~。今度、家でも作ってあげてね。パパが喜ぶわ。」

「……一切れ、持って帰ってもよかったのに。」
多少めんどくさく感じて、ついそうこぼした。

「だって今夜はとても無理でしょ。……明日も無理かしら。ふふ。」


ママの言う通り、パパはすっかりできあがっていた。

「おかえり~。なっちゃん。待ってたよ~。」
なんと、パパはマンションのお部屋の玄関先に座り込んでいた。

ちなみにパパはママのことを「なっちゃん」と愛称で呼ぶ。
ママもパパに呼び掛けるときは、名前が多いかな。
2人は、とても仲良しだ。

「やだ、章(あきら)さん!どうしたの?こんなところで。……小門さんは?」

この「小門さん」は、光くんや薫くんのお父さんの頼之(よりゆき)さんではなく、おじいちゃんに当たる成之(なるゆき)さんのことだ。
今夜は、成之さんが早く帰宅しなくていいらしく、我が家で飲んでくということだったが……

「帰った~。引き止めたけど、帰るってゆ~から~、引き止めて~……。」

パパは完全に酔っ払っているらしい。