小夜啼鳥が愛を詠う

「もちろん。5歳までおったからな。けっこう覚えとーで。……一番古い記憶は、ほら、桜子も来て、桜の城みたいなとこで遊んだよな?あの時の色とりどりの着物がすごい綺麗で……桜子にも着せたい、似合うやろなーって思とった。」

え!
それって、ずいぶん昔だったよ。
私もうっすらしか記憶にないのに、よく覚えてるなあ。

……やっぱり薫くんも、頭よさそうだわ。

「着物、大変なの。着付けも髪も美容院だから。」

そう言ったら、薫くんが首を傾げた。

「じゃ、うちのおばあちゃんに着せてもろたらいいやん。桜子から金(かね)とらんやろ。」

「……あー、お金の問題じゃなくて、着物や小物を運んだりね、準備がかなりめんどくさくて。」

でも、薫くんは笑顔になった。
「なんや、それ。そんなん、俺が運んだるわ。桜子が着物、窮屈じゃないんやったら、今度、着て。な。」

……う……わぁ……。

薫くんなのに。
5つも歳下の薫くんなのに……生まれたて時から知ってる薫くんなのに……声が変わっただけで……やばい。

破壊力すごいわ。
かっこいい、とか思っちゃったじゃない。

男の子って……いつの間にか男になっちゃうのね。

ドキドキする。
なんか、意識しちゃう。

私はうなずくのが精一杯。
うれしそうな薫くんの瞳がキラキラしてて、……なんか、照れちゃった。
あはは。


「光ー。桜、観に行こう!」
薫くんに呼ばれると、光くんがパタパタと走ってきた。

……あれ?
なんか、光くんが大型犬に見える?
あれー?

よくわからないけど、いつの間にか、光くんと薫くんの関係性が変化してるように感じた。

でもよくよく考えてみたら、薫くんは変わってないのかも。
ずっと小さな手を目一杯広げて、光くんと私を守ろうとしてくれてたもん。
背伸びしていたかかとが地に着いたのかな。

ああ、そうか。
光くんが、薫くんに甘え出したんだ。

「桜って?もう咲いてるの?」
「うん。京都はね、秋からずっと桜が観られるよ。秋咲きの品種もあるから。」

光くんがそう言うと、薫くんが顔をしかめた。

「ありがたみないな。それ。」

確かに。
桜って、春に一斉に咲いて、散るイメージ。

「そう?でもほら、さっちゃんも、冬生まれなのに桜子だもんね。」
光くんがそう言って、私にニッコリ笑って同意を求めた。

「うん。ママが京都にいた頃、毎年、桜を見てたんだって。」
「へえ?どこの桜?」

薫くんに聞かれて私は首を傾げた。

わかんない。
聞いたことないわ、そんな細かいこと。

「まあ、またでいいか。今度おばさんに聞いとくわ。」
薫くんはそう言って、光くんに手を差し出した。
「ほら、行くで。」

「うん!」
やっぱり、光くんがワンコになった気がする。

「さっちゃんも。行こう。」
光くんは、真ん中でぶんぶんと手を振りご機嫌だった。

まだ3月なのに、いろんな種類の桜の植わった神社で、私達はいっぱい写真を撮り、はしゃいだ。

一足早い春を堪能した。