小夜啼鳥が愛を詠う

むしろ喜んでる私に、玲子さんは苦笑した。

「えへへ。じゃあ、再婚するの?……あ、初婚だ。」
照れ隠しに笑いながらそう聞いた。

玲子さんはキッパリ言った。
「しないわよ。ふさわしくないもの。」

ふさわしくない?
どうして?

「バツイチじゃないんだし、戸籍真っ白だし、むしろ好都合じゃないの?」

でも玲子さんは息をついた。
「あのね。さっちゃん。私は35年間、成之の妾(めかけ)だった女よ。二号さんなの。そんな女が、立派な高僧にふさわしいわけないでしょう?」

……ドキンとした。
そういう言いかたをされると……なるほど、世間的にはまずいのかな?

「いっそ、バツイチのほうがよかった?」
恐る恐るそう聞いた。

玲子さんは、やるせなさそうに笑った。
「そうね。社会的にけじめがついた気がするわね。……でも、後悔してるわけじゃないの。伊織を授かって、わずか5年間だけど、母親として生きて……本当に幸せだったのよ。全てを否定したくない。」

……うん。
そうよね。

私は、黙ってうなずいた。

玲子さんは、私の頭を撫でてくれた。

「やっと、なっちゃんの気持ちが少しわかった気がする。どんなに愛されても、そこに喉から手が出るほど欲しかった幸せがあるってわかってても……彼の人生に自分が傷をつけるようなことは、できないものなのね。」

残念ながら、私にはよくわからなかった。

でも、玲子さんが御院さんを敬愛してるから踏み出せないのだということは、わかった。

そして、ママの昔の恋人……たぶん私の遺伝子上の父親が、ママと私を捨てたんじゃなくて、ママが何らかの理由で身を引いたことも類推できた。

……人生って、そんなにもままならないんだろうか。

私なら……もし、光くんが私を愛してくれたなら……光くんのママに対する偏愛の半分とは言わない、10分の1でも分けてくれるなら、何の躊躇もなく飛び込むけどな。

……虚しい想像だわ。




一週間後、高校入試が無事に終わった。
そして翌朝、光くんと薫くんが迎えに来た。

いつもやかましく騒いでわたしを呼ぶ薫くんが静かに光くんの後ろに立っていた。

「おはよう。光くん。薫くん。……薫くん?久しぶり。なんか……おっきくなった……よね?」