小夜啼鳥が愛を詠う

……1人の時ならともかく、光くんと一緒にいる時に、光くんではなく私を見てる人は珍しい。

気になって周囲を見てると、外国人男性と目が合った。

綺麗な緑の瞳……。
外国人なのに、お能を理解できるのだろうか。

興味深く見てると、外国人男性がほほえんだ。

ドキッとした。

「……吉野天人。」
普通に綺麗な日本語のイントネーションで、外国人男性はそうつぶやいて、会釈して去って行った。

「吉野天人、だって。」
光くんも気づいていたらしい。

……何となく不満そう。

「そう聞こえたねえ。日本語上手。感動したのかしら。」
多少ときめいたことをおくびにも出さず、私は他人事のようにそう言った。

光くんは肩をすくめた。
「さっちゃんのことだよ。もう。さっちゃんって、自分が綺麗でかわいい自覚なさすぎ。ほら。帰るよ。」

そう言って、光くんは私の手を引いて歩き出した。

……うわぁー!!!

いや、手をつなぐなんてのは、日常茶飯事なんだけどさ。
その前に、光くん、私のこと、何て言った?

綺麗!?
かわいい!?
私が!?

キャーッ!

どうしよう。
すごくうれしい。

……他の人からは、いくらでも言ってもらってきたほめ言葉だけど……光くんが私の容姿を誉めてくれるなんて……。

ハッキリ言って、「綺麗」も「かわいい」も、私より光くんのほうがふさわしい。
わかってる。

けど、……やっぱり、うれしい。
ドキドキが止まらない。

このまま……ずっと……一緒にいたい。

帰りたくない。


そんな私とは対照的な光くんは、京都が好きと言いながらも、ママのいる家に帰ることがうれしいらしい。
地下鉄を乗り継ぎ、阪急電車の特急車両に座る頃には機嫌が戻っていた。

光くんは、今日の演目の解説を順番にしてくれた。
でも、最後の「吉野天人」の時は、ちょっとイケズだった。

「さっちゃんは吉野天人と違って飛んで行ってしまうとかできないんだから、知らない男に愛想笑いとか、優しくしたりとかしなくていいから。」

ううう。
恥ずかしい。

……でも、何となく……うれしいかも。
まさか、光くんに心配をかけてるなんて、思いもしなかった。
やきもきさせちゃってるんだ……。
うれしいな。

「舞台の桜、綺麗だったね。」

そう言ってから、ふと思い出した。
桜ももちろん大好きだけど、光くんの好きな梅が観たい。

「ね。光くん。受験が終わったら、もう一度京都に連れてきてくれない?……今度は、光くんの好きな梅を観に。」

思い切って、誘ってみた。