小夜啼鳥が愛を詠う

頬を染めた菊乃天人に、僕の頬もほころんだ。

まあ、いっか。

てか、こんなにかわいいんだもん。

手を出すな、ってのは……無理だよ。

ほっといても、こうやって、この子のほうからしがみついてくるし。



「菊ちゃん!何て格好!はしたない!離れて!」

ゆきぼんが、会場から猛ダッシュして来た。

菊乃天人は、意地になって、ますます僕に力を込めてぎゅっとしがみついた。

その手を撫でるように軽く叩いて、離れてもらう。

不満そうに僕を見て、菊乃天人は言った。

「一番大事なコトって、何?」


菊乃天人をちゃんと立たせて、多少乱れた裾をきちっと直す。

「……うん。綺麗になった。」

満足してそううなずいて見せてから、僕も立ち上がって菊乃天人の肩にそっと手を置いた。

ゆきぼんが過剰に反応するのに、苦笑して会釈してから……菊乃天人の耳元に唇を寄せた。

「菊乃さんのそばにいること。」

菊乃天人は満面の笑みを浮かべた。


それ、それ。

その笑顔を見るだけで、僕は幸せになれるんだよ……。

……色を失ったゆきぼんには申し訳ないけど……ほんと、ごめんね。


菊乃天人はご機嫌さんで僕に問いかけた。

「私が、天女になって飛んで行ってしまわへんように?」

悪戯っ子のような瞳。

……甘やかすと、どこまでもつけあがりそうだなあ。

マジでけっこう大変かもしれない。

でも……。


ついつい苦笑が漏れた。


どんどんワガママになればいい。

僕以外の男は誰もついて行けないぐらい……。


「……ほっといても、飛んでってしまうことはないかもしれないけれど……拗ねて荒れちゃいそうだね?我が天人は。」

菊乃天人は微妙な顔になった。


僕らのやり取りに肩をすくめて、ゆきぼんは黙って踵を返した。

慌てて僕は、菊乃天人の背をそっと押し出す。

「ほら、菊乃さんも行っといで。……僕はココで見てるから。」

「ほんまに?勝手に帰ってしまわへん?終わるまで、待っててくれる?」

心配そうな菊乃天人に、僕はうなずいた。

「ずっと見てるよ。菊乃さんを、……待ってる。」


自分でそう言って、ちょっと笑えた。

象徴的な言葉だなあ、って。

菊乃天人への恋心を端的に表現してるじゃないか。


笑顔の僕に安心したらしく、菊乃天人はパタパタと音をさせて、ゆきぼんを追った。

ひらひらとたなびく長い袖が可愛かった。


……ずっと、見てるよ……か。


今だけじゃない。

ずっと、ずっと……。

君がオトナになるまで、ずっと……。


逃がさないからね。