小夜啼鳥が愛を詠う

緊張感ただよう張り詰めた空気の中、菊乃天人のお父さんは能面のような微笑を貼り付けた。

「……俺にそんなん言われても……よう許可できんわ。てか、そんなん、娘の男親に言うなや。目に付かんように、こっそりやれや。むかつく。」

まるで腹話術のように、表情と漏れ出てくる言葉が噛み合ってない。

……こ、こわい。

「ひどっ。家元かて、つき合う時にうちの親にわざわざ挨拶に来たやん。筋、通したかったんやろ?」

見かねたらしく、菊乃天人のお母さんが飛んできて、助け船を出してくれた。

「あほか。俺らの結婚は確定事項やったやろが。」

「そんなん、家元が勝手に決めてただけ。うっとこは、突然すぎて、びっくりしたんやから。……まあ、長い目で見て判断したらいいやん。ねえ?光くん?……菊乃んはまだお子ちゃまやから、うかつに手ぇは出さへんよねえ?」

菊乃天人のお母さんもやはり、一筋縄ではいかないようだ。

僕の味方をするようで、しっかり釘をさされてしまった。


苦笑しそうな頬を引き締めて、なるべく重々しくうなずいてみせた。

「もちろんです。……ゆきぼんとも協定を結びました。菊乃さんが大人になるまで、待ちます。」

菊乃天人のお母さんはニコニコとうなずいてくれたけど、お父さんのほうはまだ疑心暗鬼らしい。

「大人っちゅーのは、いつや?二十歳か?就職するまでか?」
と、子供のようにいつまでもこだわって、菊乃天人のお母さんに腕を引っ張られて止められていた。

……この夫婦……けっこう、おもしろいかも。

いかにも亭主関白なのに、根っこのところは奥さんが掴んでるというか。

うちのあーちゃんとお父さんとは違う形だけど……いいな。



会場に戻る2人を見送ると、腰が抜けた。

再びソファに深々と埋まって、ためいきをついた。

……ちゃんと、挨拶できたよな。

「光?しんどいの?」

入れ違いに、菊乃天人がやってきた。

友禅の振袖がよく似合ってる。

「いや。お父さんに挨拶して、緊張が解けたところ。ぐったり。……両手貸して。」

僕に言われた通りに両手を前に出す菊乃天人。

かわいいなあ。

両手の指を絡めるようにぎゅっと握ると、力が湧き出てくるような気がした。


「……充電?」

不思議そうな菊乃天人にうなずく。