小夜啼鳥が愛を詠う

「……恐れ入ります。でも、本当に僕は何もしてません。……菊乃さんはずっと秘密を抱えて苦しかったんだと思います。」

何から話すべきかわからず、僕はそう言って、菊乃天人のお父さんの反応を待った。

菊乃天人のお父さんはため息をついた。

「母親のことを悪く言うつもりはないけど……困ったヒトやったわ。なんで、ちっちゃい菊乃にそんな重たいモン、託してんろうな。かわいそうに。」

やっぱりもう聞いてるんだ。

ちょっとホッとした。

一から十まで説明しなくていいだけで、かなり気持ちが楽になった。

「直感的にわかったんじゃないでしょうか。菊乃さんなら仲良くなれるって。……でも今日の舞台を観ると、仲良しだけじゃダメみたいですけど。」

「ああ。精神的に強くならんとな。……て、そんなん、わかるんか。ふーん。……君も、舞踊、始めてみいひんけ?」

まさか、菊乃天人のお父さんにまで勧められるとは思わなかった!

慌てて僕は手を振った。

「無理ですよ。……僕にできることは、せいぜい菊乃さんのお稽古や舞台を見守ることぐらいです。……それと、僭越ですが、菊乃さんから、お父さんの会社の役に立つ資格を取るようお願いされました。」

そう言ったら、菊乃天人のお父さんは首を傾げた。

「へえ?一級建築士でも取ってくれるんけ?」

そう言って、お父さんは笑った。

冗談のつもりらしいけど、……僕は笑えない。

菊乃天人が、いつか、マジで要求しそうだ。

「……てことは、菊乃はやっと自分が継ぐんはあきらめたんやな?……しかし、君もイイ迷惑やな。……将来を約束してるわけでもないやろうに。」

……牽制されたな、今。

うーん、さすがに京都人だ……お父さん。

僕は、気づかないふりをして、曖昧に苦笑して見せた。

「多少の躊躇はありますが、迷惑とは思いませんでした。……むしろ頼られることがうれしいです。」

……そう。

うれしかったんだ。

菊乃天人が夕べ僕にねだったご褒美は、直接的にも間接的にも僕を雁字搦めにしてしまった。




『とーさまの会社の役に立つ資格を習得してほしい……。』



……それが、菊乃天人の願いだった……。