小夜啼鳥が愛を詠う

打ち上げ……って、せいぜい居酒屋やレストランを貸し切ってやる程度かと思っていた。

でも、芳澤流の舞踊会の打ち上げは、京都で一番ぐらい格の高いホテルのバンケットルームで行われていた。

普通に、パーティーだよ、これ。

「そりゃそうですよ。芳澤は、後援者も一流どころが名前を連ねてますから。じゃ、お兄さん。僕、挨拶まわりしてきます。営業営業。」

会場に入ると、ゆきぼんはそう言って、まるで蝶々のように、ひらりひらりと飛び回った。

菊乃さんは、おばあちゃんに連れられて、やっぱり挨拶に回っているようだ。


あまりにもヒトが多く気おくれした僕は、一旦会場を出て、廊下のソファに身を沈めた。

……さすがに人見知りがぶり返してきたようだ。

やっぱり今日は帰ろう。

菊乃天人のお父さんには、後日また日を改めて……

「……ほんまや。気持ち悪いほど似てる。」

上から注いだ苦笑まじりの声は、確かに僕に似てた。

ハッとして顔を上げると、誰あろう、菊乃天人のお父さんが僕を見下ろしていた。


……日を改めるつもりが、余儀なく今、挨拶する羽目に陥った。

慌てて僕は、ソファから立ち上がった。

「座るで。」

菊乃天人のお父さんは、僕の前のソファにどかりと座った。

まるでコントのように同時だったので……僕らは顔を見合わせて、笑った。



「はじめまして。小門(こかど)、光です。」

座り直してから、僕はそう名乗った。

「芳澤です。……親戚なんやて?」

菊乃天人のお父さんは僕の顔を覗き込んだ。

「……まあ、親戚なんやろな。これだけ似てるんやし。」

ずいぶん軽いけど、そう納得したらしい。

……どうやら、菊乃天人のお父さんは、疑い深いヒトじゃないようだ。


「親戚なんはわかった。けど、菊乃のことはどうやねん?うちの娘に、何した?」

「え!何もしてません!」

思わず、ぶるぶると首を横に振った。

そんなつもりはなかったけれど、たぶん僕は怯えていたのだろう。

菊乃天人のお父さんは、自分の額をペシリと軽くたたいて、言い直した。

「堪忍。そういう意味やなくて……菊乃がやっと舞に真摯に向き合う気ぃになったらしいわ。うちのもんがどれだけゆーても逃げ腰やった娘が。……せやし、君に感謝してる。」

感謝、という言葉が嘘のような表情だった。