小夜啼鳥が愛を詠う

「……もう。……ほら、そこ。上がったら見えるから。しー。」

菊乃天人は逃れることをあきらめたらしく、逆に胴を巻く僕の腕に掴まって、白い光線を指差した。

階段を上がると、斜めに舞台を見下ろせた。


菊乃天人のお兄さんの咲弥くんは、艶やかな姫の姿でかわいらしく舞っていた。

まるでお人形のような無邪気な舞だった。

……何となく……あやちゃんや、はなちゃんの……あまり物事を深く考えないぽやーんとしたところが咲弥くんに重なるような気がした。

綺麗だな……。

でも、確かにこれは……ほっとけない。

線が細い、と宗真さんは言ってた意味がよくわかった気がした。


これで惚れっぽいって?

そりゃ、心配だ。


ゆきぼんが過剰なまでに世話を焼くというのも、そーゆーことか。

「ね?にーさまのほうがよっぽど天人やろ?」

舞が終わり、拍手が起きると、菊乃天人は僕の耳元でそうささやいた。

「確かに。咲弥くんの『吉野天人』観たかったな。……でも、菊乃さんは、僕だけの天人だから。」

お返しに、僕も耳元でささやいた。

「逃がさないけどね。」
と、付け加えて。



大トリは、菊乃天人のお父さん。

瞽女(ごぜ)と呼ばれる盲目の女を舞っていた。

なんてゆーか……色気じゃなくて……ゾクッとする迫力を感じた。

ネットで、お父さんの昔の舞を何本も観たけど、もっと華やかで美しかったぞ。

……宗真さんと同い年には思えない、地に足がついた感。

責任感の重さがそうさせるのか。

「お父さん、すごいね……。」

腕の中で、菊乃天人は震えていた。

驚いて顔を寄せたけど、泣いてるわけではなかった。

「……こわぃ。」

消え入りそうな声でそうつぶやいて、菊乃天人は僕にしがみついた。

僕や、他の一般的なヒトの目には、せいぜい緊迫感しかわからない。

けど、菊乃天人や宗真さんのような特殊なヒトには、リミッターぎりぎりの際どさを与えるようだ。



「自分を極限まで追い詰める……って感じ?」

後から菊乃天人がそう表現してくれた。

「ストイックな武士みたいだね、お父さん。」

咲弥くんとも、菊乃天人とも違う。

おもしろいな。