小夜啼鳥が愛を詠う

翌日、菊乃天人のお家の主催する舞踊会を観に行った。

楽屋見舞いは、菊乃天人のお母さんに手渡した。

「わざわざ、ありがとう。……菊乃んに、逢ってく?……今、顔、してるとこ。だいぶ前にできてたんやけど、ゆきぼんのダメ出しが入ってねえ。意地になってやり直してるんよ。」

「……いえ。それなら、邪魔しちゃ悪いので、後にします。終わってから、楽屋をお訪ねすればよろしいですか?」

そう尋ねると、菊乃天人のお母さんは僕にタクシーチケットをくれた。

「あら。菊乃んから何も聞いてないの?終演後は打ち上げ。光くんも、来てね。ゆきぼんも一緒に。」

「……打ち上げ……って……僕がお邪魔しちゃって、いいんですか?」

そんな内輪の会に……と、一瞬恐縮したけれど、菊乃天人のお母さんはニコニコうなずいた。



いただいた座席は、ゆきぼんと舞ちゃんの間。

2人は、一曲終わる度に僕を挟んで専門的な感想を述べ合った。

「……席、代わろうか?」

何度となく2人にそう尋ねたけれど、立ち上がると後ろに迷惑だからと固辞された。


……苦行だ……。

そもそも、僕は、素人さんの舞台を楽しめるほど、舞を理解していない。

退屈だし、眠いし……マジ、帰りたい。


「お兄さんも始めれば?舞。」

休憩時間に、半分冗談、半分本気でゆきぼんがそう言った。

「いい!似合う!」

無責任に舞ちゃんがはやし立てた。

「……勘弁してよ。」

習うなら、とっくに、宗真さんに仕舞いを教わってるよ。

「えー、でも、綺麗なだけじゃなくて、腰の据わりがいいから、絶対上手いと思いますよ。……何か、和的な習い事してました?お茶とか、柔道とか、剣道とか。」

ゆきぼんにそう聞かれて、驚いた。

「そんなのわかるんだ。……小さい頃から、空手やってたよ。」

「空手!……え?空手って、日本の競技?」

舞ちゃんの素朴な疑問に僕は苦笑した。

「うーん、確かに微妙。もとは琉球の武道だし。……日本のようで、日本とは異文化かも。」

「……めんどくさいなあ。いいじゃん。空手は日本の競技で。東京五輪で正式種目になるんだし。」

そうぶった切ってから、ゆきぼんは言った。

「仕舞いも、日本の舞ですよ?せっかく伝手(つて)あるなら、習えばいいのに。」