小夜啼鳥が愛を詠う

大学に戻ると、いつも通りの優しくかわいいさっちゃんが僕を待っていた。

純喫茶マチネに寄って、忙しそうなマスターのお手伝いをしてると、気持ちも紛れた。

帰宅して、家族と過ごす時間は幸せに満たされていた。

……なのに、自分の部屋で独りになった途端に、涙がこみ上げてきた。


明田さんがいなくなった時も、こんな風だった……。

わがままに漁色を繰り返した日々も記憶に新しいのに……心が寄り添えるヒトを失うことには、こんなにももろい。

喪失感に打ちのめされた僕は、何もできずにただ泣いていた。


世界に独りってわけじゃない。

大切なヒト達がいる。

でも、僕の……どうしようもなく甘ったれなところも、傲慢なところも……心身ともに受け入れてくれるヒトは……もういない。


不意に、けたたましい着信音が鳴り響いた。

道成寺で、蛇の化身が現れる時の賑やかなお囃子だ。

はた迷惑なまでにうるさいこの音を菊乃天人からの着信音に個別設定してると知れば、彼女は怒るんだろうな。

でも、菊乃天人には道成寺がよく似合いそうな気がする。

「……ん。」

鼻声を気取られたくなくて、僕は最小限の反応で電話に出た。


『光!?ちょー、聞いてっ!とーさま、光のこと、もう知ってるみたい!さっき、かーさまがそんなことゆーてたっ!』

僕とは対照的に、菊乃天人のテンションはMAX。

……こんな夜中なのに……元気な子だよ。

やれやれ、と、ため息と苦笑が勝手に出てきた。

「しぃっ。声、おっきい。耳が痛いよ。……そう。誰から聞いてらしたの?おばあちゃん?」

『……わからん。けど、おばあちゃまでも、かーさまでもないみたい。ゆきぼんかなあ。言うなってゆーたのに。むかつく。』

ぷりぷりしてる菊乃天人をたしなめる。

「言葉が乱れてるよ。……そう。お父さん、怒ってらっしゃるの?僕、お訪ねしないほうがいい?」

すると急に菊乃天人はしおらしくなった。

『……ごめんなさい。……わからへん。でも、逆に、光を待ち構えてるっぽいみたい。……居心地悪いかもしれんけど……お願いします。』

……さっきまでと別人だな。