小夜啼鳥が愛を詠う

「えー、お父さんのお弟子さんなら、来るんじゃない?……宗真さん、ゆきぼんも知ってるの?……お手つき……じゃないよね?」

「アホか。まだ子供やろ。……そんなんちゃうけど……如矢は、あの兄妹に肩入れしすぎて盲目やからな。関わると面倒やで。」

顔をしかめた宗真さんからは、本気で関わりたくないのが伝わってきた。

「そっかぁ。ゆきぼん、菊乃さんだけじゃなくて、お兄さんのことも好きなんだ。」

僕の適当な言葉を宗真さんは否定しなかった。

……ゆきぼん……そうだったのか……。

手広いな。




携帯がぶるぶると震えた。

「呼ばれてるで。芳澤のお嬢さんちゃうけ?」

宗真さんに促され、携帯をみる。

「さっちゃん。講義早く終わったみたい。」

顔を上げると、宗真さんが苦笑していた。

「……そうか。彼女もいたな。……芳澤のお嬢さん、まだまだ光を独占できひんなあ。」

「もう。さっちゃんはそんなんじゃないし。」

そうは言っても、さっちゃんをほっとくこともできない。

でも、宗真さんとも離れがたい。

そわそわしてる僕の背中を宗真さんが押してくれた。

「早よ行ったり。待ってはるんやろ。……ほら、そんな顔せんと。これっきりってわけじゃないんやから。」

「ほんとに?また逢える?」

本当は、わかっていた……。

身体を交えるどころか、2人で過ごすことすら、もうないということを。

「ああ。いつでも逢える。今日みたいに偶然逢うこともあるやろし、光が困ったら話ぐらいはいつでも聞く。二十歳(はたち)過ぎたら飲みに連れてってやるわ。」


……淋しい。

どんなに言葉を尽くしても、心が共鳴しあっても……かつての僕らじゃない……。


Sans toi ma mie(サン・トワ・マ・ミー)……古いシャンソンが頭の中に流れている。

ここに来る直前に受けていたフランス語の副読本には、いくつかの有名なシャンソンが紹介されていた。

岩谷時子女史の名訳はとても洒脱で軽妙で素晴らしいけれど、フランス語の直訳はもっと女々しい。

……さっきは、他人事でしかなかったのに……今は、こんなにも心に迫る……。




Je sais tout est fini

全てが終わってしまったことを、僕はちゃんとわかっているのに……。