小夜啼鳥が愛を詠う

「せやねん!俺もびっくりしてん!……でも、綺麗やろ?桜子に見せたかってん!」
薫くんはそう言って、絵と私を交互に眺めた。

……うん。

綺麗な絵。

淡い色彩に溶けこむように、たおやかな……たぶん、妙齢の女性。
デコルテまで乳白色の素肌を描いてあるんだけど、女性的なふくよかな丸みを感じさせない。
華奢というか……首筋とか、鎖骨とか、肩の骨とか……

「性別不詳ね。光くんみたい。」
苦笑してそうつぶやいた。

「光は男やで?脱いだらマッチョやで?」
不満そうに薫くんがそう言った。

……想像して……恥ずかしくなった。

無理。
裸の光くんとか……絶対、無理。


しばらく見とれてたら、薫くんがくしゃみをした。
どうやら、かいた汗が冷えてきたらしい。

「大変!風邪引いちゃうね。帰ろうか。」

ハンカチを出したけど、たぶん、今さら……よね。

「うん。またいつでも連れて来たるわ。でも、桜子、独りで来んなよ?あぶないしな。」

薫くんはそう言って、私に手を差し出した。

……エスコート、してくれるつもりらしい。

小門ご夫婦、相変わらず仲良しなんだろうなあ。
たぶんお父さんの真似をしてるっぽい薫くんに頬を緩めて、私は小さな手に自分の手を委ねた。

小さな紳士……騎士かな。
お姫さま気分で、私は薫くんと帰路に就いた。



「ただいまー。なんか、濃い~エエ匂いする。」
お鼻をクンクンさせて、薫くんが玄関に飛び込んだ。

この薫り……ママ?

「お帰り~。ごめ~ん、さっちゃん。薫と遊んでくれとったって?……薫!?さっちゃんに迷惑かけんかった?」
「あーちゃん。包丁。危ないよ。」

光くんと薫くんのママが包丁を握ったまま迎えに出て来てくれたのを、光くんが慌てて追いかけてきた。

「ただいま帰りました。もしかして、イカナゴを炊いてはるんですか?」

私がそう尋ねてる間に、薫くんはダーッと走ってキッチンへと走ってく。

「おばあちゃーん!これ、なんの匂いー?」

……素早い。

薫くんの背中を苦笑で見送ってから、光くんママは少し膝をかがめて私と視線を合わせた。

「さっちゃんママのイカナゴ、おいしいから、教えてもろとーねん。……あーあ。靴、汚れたね。ごめんねえ、さっちゃん。どこ行ってきたん?公園?神社?」

「あーちゃん、包丁、置かないと危ないよ。……さっちゃん、靴、貸して。磨いたげる。」

光くんがそう言って、私が脱いだばかりの靴に手を伸ばした。