小夜啼鳥が愛を詠う

「わかった。今までイロイロとありがとう。」

そんな言葉で表現しきれないぐらい世話になったヒトだけど……形には何も残らない。

淋しいけれど、わかっていたことだ。

一生続く関係じゃない。

むしろ、よく続いたよ……。

「そんな顔するな。抱きたくなる。」

宗真さんはそう言って、僕の背中を軽く叩いた。

「……ごめん。でも、やっぱり淋しいみたい。……舞台ぐらいは、観に行っていい?」

未練かもしれない。

でも、完全になかったことにはしたくないみたいだ。

「もちろん。てか、光はうちの賛助会員に登録してるから、ほっといても案内は届くわ。」

そう言ってから、ふと気づいたように宗真さんが言った。

「芳澤のお嬢さんの分も送ろうか?」

「……あ~。そっちは、学校の先生から買うんじゃないかな。徳丸さん?ワキ方の能楽師さんと懇意みたい。」

まるで世間話でもしてるようだ。

いや、宗真さんとは、ずっとこうだったかもしれない。

性行為の時以外は、兄弟か親友のようにたわいもない話もいっぱいしてきた……。


「明日は、『砧』を舞うって?……歳に合わん題材選んでんなあ。」

「うん。でもたぶん、次からは年相応に華やかなのを舞えるようになると思う。……もう怖くないだろうし。」

そう言って、扇屋の彩瀬の写真を指さした。

「菊乃さんに憑いてたのって、あやちゃんでしょ?」

宗真さんは再び写真に目を落として、うっすら笑った。

「なるほど。どこかで見覚えある思たら、あの子ぉが連れとった美女か。光と、えらい深い縁(えにし )やん。……泣かさんときや。」

「うん。そのつもり。……ところでさ、明日たぶん、菊乃さんのお父さんとお兄さんにご挨拶するんだけど……どんなヒト?怖い?」

……こんなこと、宗真さんに聞くのはおかしいかもしれない。

でも、2人ともを知ってる宗真さんを、僕はついつい頼った。

「怖くはないやろ。梅宮……父親は無頼やけど話がわからん奴じゃないし。咲弥は惚れっぽいから、光は近づかへんほうがいいかもな。……如矢(ゆきや)も来るんけ?」

意外なヒトの名前が出てきた。